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1.ブログの目的2.国際法3.時事問題・国際関係

外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

条約の解釈手段と根拠

問題提起

条約の明文も、締結後の事情や目的の変化により、様々な解釈が可能となってくる。解釈が不当になされ、乱用されることにより条約の意義が失われることがないように、どのような考えが国際法上用いられているか。また、それは慣習国際法化しているといえるか。

 

理由

第一に、条約法条約31条1項は「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」としている。ここで解釈方法について3点が挙げられる。

  • 文脈による主観的判断
  • 趣旨及び目的に照らした実効性に基づく判断
  • 通常の意味による客観的判断

第二に、条約解釈の根拠として挙げられるものは条約法条約31条2・3項で示された6点である。

  • 条約
  • 関係文書
  • 関係合意
  • 条約の解釈または適用に関する当事国間で後にされた合意
  • 条約の解釈または適用に関する後からの慣行
  • 国際法関連規則

また、条約法条約32条では以上の6点に基づく解釈のみでは意味があいまいな場合、及び常識に違反し、不合理な結果をもたらす場合に関し、補足的な手段のみに限って次の2点を認めた。

  • 条約締結の準備作業
  • 条約締結の際の事情

 

判例

リビア=チャド領土紛争事件-国際司法裁判所判決・1994年2月3日

(事案)

リビアは1955年、フランスと善隣友好条約を締結し、植民地から独立したが、この条約はリビアとフランス領赤道アフリカとの境界も規定していた。1960年に同じくフランス領より独立したチャドはフランス領赤道アフリカの一部であった。1973年にリビアはフランス・イタリア間で1935年の条約に基づき、チャドとの国境沿いのアウズ地帯を軍事占領した。この問題で両国は交渉に困難を見出し、国際司法裁判所に付託した。

 

(判旨)

リビアはアウズ地帯領有の正当性として、1955年のフランスとの善隣友好条約の期限が20年であり、期限切れである点、また規定にある「国境を承認する」とはすでに確定した国境のみを指し、確定していない国境については意味していないものであることを主張している。

まず、前者に関して、条約には定められた国境が暫定的であるとする文言は一切無い。国境は条約と運命を共にせず、一度合意されれば、国境は恒久性を持つ。さもなければ、国境の安定性という原則を欠くことになるからである。後者に関して、条約法条約31条は「条約は文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い誠実に解釈するものとする」と定め、また、32条では補足的手段として条約の準備作業や締結の際の事情に依拠することが出来るとされている。用語の通常の意味を用い、誠実に解釈すれば、「国境を承認する」という文における国境は全ての国境を指す。また、1955年のフランスとの善隣友好条約が具体的に定めた国境については条約の準備作業に拠って確認できる。

 

 

結論

解釈が不当になされ、乱用されることにより条約の意義が失われることがないように、条約法条約は31条、32条で、条約の解釈は、正当な根拠としての条約、関係文書、関係合意、当事国間で後にされた合意、後からの慣行、国際法関連規則、またその補足手段としての準備作業、締結の際の事情を、文脈による主観的判断、趣旨及び目的にそう実効性の有無、通常の意味による客観的判断の3点に着目してなされなければならないとした。

また、この条約法条約31,32条に関する規定は、リビア=チャド領土紛争事件国際司法裁判所判決において、慣習国際法化しているとみなされた。

条約の無効原則

網羅主義

条約法条約42条1項

「条約の有効性及び条約に拘束されることについての国の同意の有効性は、この条約の適用によつてのみ否認することができる。」

 この条項は無効となる原則がすべてこの条約により網羅されているとする網羅主義をとり、無効原則に首尾一貫性を持たせることにより、条約批准後の紛争の防止を目指した。

46条国内手続き違反47条代表者の権限逸脱48条錯誤49条詐欺50条買収までを相対的な無効51条強制52条武力行使53条上位規範違反絶対的な無効とした。

ここでは、基準が論争となった46条国内手続き違反、48条錯誤、53条上位規範違反に関して議論していく。

なお、49条詐欺と50条買収は今までに判例がない。

 

1.46条国内手続き違反

問題提起

国家が国内法(主に憲法)に違反した状態で、条約を締結した場合、その効力は有効といえるか。

 

理由

条約が国内法に違反する過程としては2種類がある。

第一に、条約内容自体が国内法規定に違反する場合である。この場合は、等位理論の観点から、正規の手続きを経て成立した条約は国際法として有効であるとしている。

第二に、条約締結の手続きが国内法規定に違反していた場合である。つまり合意そのものがが不完全であるといえ、国家の意思に反している状態で条約が締結された可能性がある。

 

考察

後者の点においても、原則的には有効であるとしつつも、条約法条約46条はその手続き違反が国内法上明白であり、かつ重大な規則に関わるものである場合は無効にすることができるとした。

 

2.48条錯誤

問題提起

条約締結時に存在した当事国の錯誤が、その国の合意に至るまでの重大な基礎をなしていた場合、その条約の効力は有効であるといえるか。

 

判例

プレア・ビヘア寺院事件-国際司法裁判所判決・1962年6月15日(百選4事件)

(事案)

カンボジアとタイの両国は国境沿いにあるブレア・ビヘア寺院の帰属を求めて争っていた。1949年以降、当寺院はタイによる実効支配が進められていた。そこで、1959年10月6日、カンボジアが、プレア・ビヘア寺院の帰属、タイ警備兵の撤退、持ち出した美術品の返還を求め一方的に国際司法裁判所に提訴したことに対し国際司法裁判所が判決を下したものである。

 

(判旨)

タイのカンボジアが領有権の根拠とする1907年作成の地図は分水嶺が一致しないという重大な錯誤があったため、無効であるとしたことに対し、

錯誤による無効は

  • 主張を行う当事者本人による行為に起因しているもの
  • 回避できたもの
  • 可能性を想定できた場合のもの

以外の錯誤に認められる確立した法原則とし、タイは自身の行為により承認をし、またそうでなくとも地図に疑念があれば、一方的行為である抗議を行うなどし法的効果を発生することができたはずであるとして、この地図を根拠にプレア・ビヘア寺院の帰属をカンボジアと断定した。

 

(追加)

判決後も、タイとカンボジアはプレア・ビヒア寺院に隣接する4.6平方キロの地帯の領有権を争っていたが、2013年11月11日の国際司法裁判所判決でカンボジアへの帰属が明確に認められ、国境が画定した。

 

考察

条約締結時に存在した当事国の錯誤が、その国の合意に至るまでの重大な基礎をなしていた場合、それが主張を行う当事者本人による行為に起因しておらず、その時点で可能性を想定できずに回避できなかったものであれば無効原因となりうる。

 

3.強行規範(ユス・コーゲンス)

問題提起

「特別法は一般法を破る」という考えに基づき、一般慣習法とは別に締結された条約は独自に効力を有するとされているが、そうした条約をも無効にする上位規範としてのユス・コーゲンス(強行規範)は存在するか。

 

理由

一般慣習法は基本的に条約の自由を認める原則から条約により制限されてきた。しかし、第二次世界大戦後の条約にもある程度の限度を求めるべきだとの声が高まり、条約法条約53条は条約よりもまさる上位規範として強行規範を定め、「一般国際法の強行規範とは、いかなる逸脱も許されない規範として、また、後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によつてのみ変更することのできる規範として、国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範」であると定義した。

 

考察

こうして比較的新しい概念ではあるが、強行規範の必要性は受け入れられつつあり、奴隷貿易を推奨する条約の禁止人身売買の手続きに関する条約の禁止など具体性にはかけるが明確化が進んでいる。

条約の留保と両立性の基準

問題提起

多数国間条約の締結に際し、慣習国際法を明文化する目的で成立した条約法に関するウィーン条約(条約法条約)はある一定の範囲内で、国家が条約に留保付きで加盟できること規定している。したがって、条約の留保は国家の一方的行為であるが、国家承認、政府承認、条約への加入と並び、実定国際法に基づくものであるため、その他の一方的行為とは一線を画し、法的正当性も認められるとする。

条約法条約は、国家による条約の留保をどのような基準に従って認めているか。また、条約の留保は加盟国間の関係の中で、どのように有効性を生じてくるのか。

 

理由

第一に、条約法条約19条は以下のように定めている。

いずれの国も、次の場合を除くほか、条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入に際し、留保を付することができる。

(a)条約が当該留保を付することを禁止している場合

(b)条約が、当該留保を含まない特定の留保のみを付することができる旨を定めている場合

(c)(a)及び(b)の場合以外の場合において、当該留保が条約の趣旨及び目的と両立しないものであるとき。

 (a)(b)の場合は留保が認められないとして、問題となるのは両立性の基準であり、留保が条約の目的との両立性をはからなければならないとした。また、条約法条約では両立性の判断は各締約国にゆだねている。

 

第二に、歴史的な事例から見て、条約を留保する国家と他の各加盟国との関係は「1927年国際連盟方式」「1932年汎米連合方式」の二つの方式がある。

前者は、全ての加盟国が当事国の留保に同意しない限り、国家は留保を示したうえで加盟国となることはできないとする方式である。つまり、加盟国の一国でも留保に反対をすれば、加盟を認められないということである。

後者は、条約の留保国は、同意を示した国との間のみにおいて条約の効力が有効になり、反対した国との間では条約は無効であることとした。よって、条約への加盟自体は認められている。

それでは現在の通説はどうであるのだろうか。

 

判例

ジェノサイド条約の留保事件-国際司法裁判所勧告的意見・1951年5月28日(百選59事件)

(事案)

1949年12月、ソビエト社会主義共和国連邦、ウクライナ、ベラルーシ、チェコ・スロバキアなど多数の国家が留保付きの批准書や加入書を提出したため、国連総会はこの留保の取り扱いに困難を生じ、国際司法裁判所に意見を要請した。

 

  1. 留保を申し出た国は、留保を維持したままで当該条約の当事国として認められるか。
  2. もし当事国と認められる場合、(a) 留保国と留保反対国との間、(b) 留保国と留保受諾国との間で、留保の効果はどうなるのか。

 

(判旨) 

 

  1. 当該留保が条約の目的と両立する場合には条約当事国と認められるが、両立しない場合には認められない。(両立性の基準)
  2. (a) 当該留保を条約の目的とは両立しないと考えて反対する当事国は、留保国を事実上、条約当事国ではないとみなすことができる。(b) 当該留保を条約の目的とは両立すると考えて受諾する当事国は、留保国を事実上、条約当事国とみなすことができる。(両立性の判断は各締約国に委ねられる)

 

  

考察

1951年のジェノサイド条約の留保事件に関する国際司法裁判所勧告的意見によると、「1932年汎米連合方式」のように、条約の両立性の判断は各締約国に委ねられ、同意を示した国とは条約が有効になり、反対を示した国とは条約が無効になる。

 

但し、条約法条約第20条4項によると

条約に別段の定めがない限り、

(a)留保を付した国は、留保を受諾する他の締約国との間においては、条約がこれらの国の双方について効力を生じているときはその受諾の時に、条約がこれらの国の双方又は一方について効力を生じていないときは双方について効力を生ずる時に、条約の当事国関係に入る。

(b)留保に対し他の締約国が異議を申し立てることにより、留保を付した国と当該他の締約国との間における条約の効力発生が妨げられることはない。ただし、当該他の締約国が別段の意図を明確に表明する場合は、この限りでない。

(c)条約に拘束されることについての国の同意を表明する行為で留保を伴うものは、他の締約国の少なくとも一が留保を受諾した時に有効となる。

 条約の留保に対し、特段の意義を申し立てない他の締約国との間には、同意なしで、留保付きの条約の効力が発生するとされている点で異なっている。

 

 

 

国際法と国内法の関係性と等位理論

問題提起

国際法と国内法の内容が互いに矛盾し抵触しあっている場合、理論的な観点から、また現実的な観点からもどのように対応するのか。

 

理由

この場合に対応する理論には4種類あり、以下の順番で国際的見解が発展してきたといえる。

  1. 国内法優位の一元論
  2. 二元論
  3. 国際法優位の一元論
  4. 等位理論(調整理論)ー柔軟な二元論

第一に、国内法優位の一元論は国際法が依然、国家の合意によるものであり国家の自由を規制するという意味合いが薄かった19世紀に現れた。国際法は国内法規のもとに規定されて初めて効力を発揮するというものである。問題点は、慣習国際法がすべての国家を拘束することや憲法(最高法規)をはじめとする国内法規が変わっても条約の効力が持続するということを説明できない点である。

 

第二に、二元論はヨーロッパで100年の平和が続き1899年1907年のハーグ平和会議が開かれる頃に主流となった。国内法と国際法を全く異なる領域に存在する法体系とみなし、国内法と国際法が抵触することはありえないと考えた。国際法と矛盾する国内法が存在しても国内法はその国内法としての効力を有し、その国内法を制定した国家が国際法に関する責任を果たしていないと考えられるにとどめている。問題点は、国内法への自動執行性をもつ国際法や慣習国際法の存在など、現実的側面で国内法と国際法が完全に独立していると考えにくい点である。

 

第三に、国際法優位の一元論は第一次世界大戦後、国際連盟の設立や不戦条約と相まって、各国が平和的協力を目的に国際法に強い拘束力を求めた時期に主流となった。国際法に基づき国内法は規定されなければならないとするものである。問題点は、国際法違反の国内法を無効にできる強力な国際法規の不在や個人への適用といった国内管轄事項を説明できないことである。

 

最後に、現在の国際上の通説として等位理論の存在がある。より柔軟な二元論であり、国内法と国際法が直接的に同時に作用する領域は存在しないとするうえで、抵触する可能性を認め、その場合に国際的場面では国際法優位、国内的場面では国内法優位とする対応をしている。

 

判例

シシリー電子工業会社事件-国際司法裁判所判決・1989年7月20日

(事案)

Whether, by preventing two United States corporations from liquidating their wholly-owned Italian corporation, Italy violated their rights under the Treaty of Friendship, Commerce and Navigation or its Supplementary Agreement.

Whether the United States' claim was inadmissible for failure to exhaust local remadies.

(訳)アメリカ合衆国の2企業がイタリアの全額出資企業を解体することを妨害することにより、イタリアは通商航海友好条約及びその補足協定下の権利を侵すことになるかどうか。

 

(判旨)

Yet it must be borne in mind that the fact that an act of a public authority may have been unlawful in municipal law does not necessarily mean that that act was unlawful in international law, as a breach of treaty or otherwise.

(訳)しかし、公権力の国内法違反であった可能性のある行動が必ずしも、条約の履行違反であるとして、またはそうでなくとも、国際法違反であったとは言えないという事実を覚えておかなければならない。

 

Nor does it follow from a finding by a municipal court that an act was unjustified, or unreasonable, or arbitrary, that that act is necessarily to be classed as arbitrary in international law, though the qualification given to the impugned act by a municipal authority may be a valuable indication.

(訳)国内権力によって与えられた嫌疑のある行為に対する資格もまた価値のある参考案件にはなるとはいえるものの、行為が不当、不合理または独断的の何れかであったということやその行為が国際法で恣意的あると位置づけられる必要のあるものだということは国内司法裁判所の裁定に基づくものではない

 

砂川事件-東京地裁判決・1959年3月30日‐最高裁判所判決・同年12月16日

(事案)

1957年7月8日に基地拡張に反対するデモ隊の一部が、アメリカ軍基地の立ち入り禁止基地内に数m立ち入ったとして、デモ隊のうち7名が日米地位協定に基づく刑特法違反とされた。

 

(判旨)

東京地裁

日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無にかかわらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲である。したがって、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条(デュー・プロセス・オブ・ロー規定)に違反する不合理なものである。

 

最高裁

憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない。

 

考察

国際司法裁判所や国家実行上をかんがみても、現在の通説は等位理論である。

  • 国家は国内法上の規定を根拠に国際法上の義務を免れることはできない。国際法上の義務を果たすためには矛盾した国内法を取り消さない限り国際責任が付きまとう。
  • 国際法に矛盾した国内法が無効になるわけではない。

国際法と国内法が抵触した場合には、国際法場面では国際法が国内法場面では国内法が優位に判断されることになる。

 

 

国際法の自動執行性

問題提起

国際法に自動執行性が認められる場合、受容方式を採用する国において、国内立法を経ずに直接に国内へ適用することができる。ここで、国際法において自動執行性があるかどうかを明確に判断するための主な基準は何か。

 

理由

国際法に自動執行性があるかどうかの判断基準は二つある。

第一に、法規が具体的かつ明確であり、国内法で補うことなく運用できるという客観的判断基準がある。

第二に、国際法を締結した国家がその時点で、そのような意思を有していたかどうかの主観的判断基準である。

国際法の国内法への適用方式は各国が独自に定めるところに基づくため主観的判断がより重要な基準となってくる。

 

考察

自動執行性の有無の判断は、最終的に各国の国内裁判所の判決によって決定される。

 

以上を踏まえて、現在まで三つの点が自動執行性の有無の根拠とされた。

 

  • 国民の権利義務を定めた内容を含む条約であるかどうか
  • 慣習国際法であるかどうか
  • 条約に規定された内容の実現に向けた国内実施原則をふまえた判断【塩見事件最高裁第一小法廷判決・1989年3月2日(百選 53)/ ヘーグ陸戦条約第 3 条損害賠償請求事件東京地裁判決・2001年10月11日(百選 10)】

 

 

ダンツィヒ鉄道労働者事件‐PICJ勧告的意見・1928年3月3日(百選15事件)

(事案)

1928年3月3日のダンツィヒ鉄道労働者事件PCIJ勧告的意見では、ポーランド国有鉄道行政に従事していたダンツィヒ鉄道の職員はダンツィヒ=ポーランド間の職員協定である国際法に基づき財政的請求を国内機関であるダンツィヒ裁判所に出訴できるかどうかが問題となった。

On September 22nd, 1927, the Council of the League of Nations adopted the following Resolution :

(訳)1927年9月22日、国際連盟理事会は以下の決議を採択した:

“The Council of the League of Nations, having received from the Government of the Free City of Danzig an appeal against a Decision given on April 8th, 1927, by the High Commissioner of the League of Nations at Danzig as to the jurisdiction of the Danzig Courts in actions brought against the Polish Railways Administration by Danzig railway officials who have passed into the Polish service, decides to ask the Permanent Court of International Justice to give it an advisory opinion on the following question :

 (訳)「国際連盟理事会は、ポーランドの国有鉄道行政に従事していたダンツィヒ鉄道の職員によるポーランド国有鉄道行政に対する案件におけるダンツィヒ裁判所の管轄権に関して、ダンツィヒ国際連盟高等弁務官による1927年4月8日の判決に反対してダンツィヒ自由都市政府が正否を求めてきたことをふまえて、常設国際司法裁判所に以下の質問に対する勧告的意見を要請することを決議する:

 

Whereas the Government of the Free City of Danzig requested the High Commissioner on January 12th, 1927, to give the following decision :

(訳)こういった事情で、ダンツィヒ自由都市政府が1927年1月12日に以下の判決を求めて高等弁務官に要請した。

(a)  that railway employees who had passed from the service of the Free City into Polish service, were entitled to bring actions in respect of pecuniary claims, even if these claims were based on the Danzig-Polish Agreement of October 22nd, 1921 (Agreement concerning officials, Beamtenabkommen) or on the declaration made under Article 1 of this Agreement, which was accepted by the Polish Railways Administration ;

(訳)自由都市からポーランドにかけて従事していた鉄道職員は、これら主張が1921年10月22日のダンツィヒ=ポーランド間の職員協定に基づくものであった場合であろうと、ポーランド鉄道行政によって受け付けられた協定の1条のもとにおける宣言に基づくものであった場合であろうと財政的請求に関する行動を起こす権利を有していたかどうか;

 

(b)  that Danzig Courts were entitled to hear the actions referred to in (a) ;

(訳)ダンツィヒ裁判所は(a)で言及された案件を扱う管轄権を有していたかどうか;

(c)  that, consequently, the Polish Railways Administration was bound to accept the jurisdiction of the Danzig Courts in disputes such as those mentioned in (a), and to enforce the judgments given by those Courts ;

(訳)そして結果的に、ポーランド鉄道行政は(a)で述べられたような論争案件におけるダンツィヒ裁判所の判決を受け入れ、これらの裁判所による判決を施行する義務があったかどうか;

... 

 ...

The Decision further lays down that “the clauses of the Agreement itself, and the declarations referred to in Article 1 of the Agreement, are not to be regarded as provisions which constitute the contract of service of the above-mentioned employees, and therefore they cannot give ground for a personal action to be brought in the courts ; under these circumstances, I do not think that the question set out in (c) arises”. … It is, therefore, on this part that the Court is asked to give its opinion as to whether it is legally well founded or not.

(訳)宣言は「宣言の条項それ自体、そして合意の1条において言及された宣言は上記の職員の契約まで含んだ規定とみなされていない、それ故に従業員は個人として裁判所に出訴する権利は与えられていない、(c)に記載された質問自体も生じるものではないとする。」と主張している。… それ故に、この点に関して裁判所はそれが法的根拠があるかないかに関する意見を求められているとする。

 

(判旨)

常設国際司法裁判所はこの協定で個人の権限に関する規定は与えられていないと勧告的意見をだし、今回の件に関して自動執行性は見られなかったと考えられる。

同時に、そうした個人の権利義務を条約に取り込むことは一般的に可能であるとし、国民の権利義務を含む内容である国際法に関し自動執行性がある可能性を示唆している。

 

 シベリア抑留補償請求事件₋最高裁第一小法廷判決・1989年4月(百選 9事件)

 (事案)

シベリア抑留捕虜補償請求事件において、第二次世界大戦後、ソビエト連邦の収容所に強制的に抑留され強制労働を強いられた軍人62名が1949年の「ジュネーヴ第3条約(捕虜条約)」お66・68条に規定された自国民捕虜補償原則に関し、それが慣習国際法として確立しているため国内司法裁判所に出訴できるとして、日本政府に対し損害賠償請求をした。

(判旨)

捕虜条約66条及び68条の自国民捕虜補償原則は慣習国際法として確立していないため、日本政府に対する損害賠償請求は認められない。

(考察)

慣習国際法には自動執行性が認められる可能性がある。

 

 

国際法の国内的な作用

問題提起

国際社会で取り決められた国際法も、個人の権利義務が関わってくる場合、それが各国内において一定の効力をもたせない限り、国際法の意味が果たせない。国際法、つまりここで言う条約・慣習国際法は国内的に実行されるためにどのような過程を辿るのか。第一に、国際法はどのような方式で国内法に取り込まれるのか。第二に、取り込まれた後に国際法は国内の憲法(最高法規)から法律に至るまで、のような関係性に位置づけられるのか。

 

理由

一つ目に関しては、国際法を国内に受け入れる方式には受容方式変形方式の二つがある。前者の場合、その国際法に自動執行性が認められるときに限り、国内立法を必要とせずに国内に適用される。非自動執行性である際には、国内法に作り替えるか、追加法とともに適用される。後者の場合は国内立法手続きをふみ国内法に作りかえられる。

なお、慣習国際法に関しては原則的に多くの国が受容方式を採用しており、条約に関しては日本(憲法98条2項)、アメリカ(憲法6条2項)、フランス、スイス、オランダなどが受容方式、ドイツ、イギリスなどが変形方式を採用しているが、現実的にはほとんどの国が両方式の混合のようなかたちで適用をしてきた。

二つ目に関しては、国際法のまま国内に適用される場合にのみ問題となってくるため、変形方式はここでは関係がない。国際法と国内法の優先順位は、受容方式を採用する各国ごとに独自の序列を定めている。日本は国際法を憲法より低く、法律より高く位置づけている。同じ方式をとる国はほかにフランス、ドイツなどがある。アメリカは法律と同位に評価し、イギリスは法律より低い位置においている。

 

考察

各国の共通の合意により生まれる国際法も、各国それぞれが独自に適用方式、効力の度合いを決めるため、国内への直接的作用は異なってくる。

 

 

 

マルキシズムで見るウクライナ騒乱:アラブの春とは異なるアメリカの影響力

ウクライナでは2013年11月に親露派のヤヌコヴィチ政権がEUとの自由貿易協定調印を見送り、その結果として親欧派、民族主義者、野党勢力による反政府運動が始まりました。

2014年2月18日には首都キエフで反政府派と警察の大規模な武力衝突が勃発し、多数の死者をだすウクライナ騒乱へと拡大し、22日の政変により親欧派のトゥルチノフ政権が新しく誕生し収束に向かうかに見えました。

しかし、27日のクリミア最高評議会及び首相府のロシア派勢力による武力占拠により、クリミアにロシア派アクショノフ政権が誕生すると、ロシア対欧米諸国という新たな対立形態が浮き彫りになり、クリミア独立宣言とロシア編入へと繋がっていきました。

 

結果、ロシアに対する国際社会の批判の風潮は強まり、特にアメリカ、EUは制裁の検討を始めました。

3月24日ロシアを除くG8の参加国はオランダのハーグで緊急会議を行い、ロシアのソチで行われるG8のボイコットに関する足並みをそろえ、次いでこの会議と合わせて26日の米EU首脳会談でロシア制裁に対するより強固な連携を図ることを合意しました。

しかし、制裁検討当時、欧米諸国がロシアへの制裁に挑む中、アメリカとEU諸国との間に温度差が見られました。そういった意味で、この米EU首脳会談での合意は大きな転機であったとみることができます。

 

ここで、ロシアとアメリカ、EU諸国の関係性をそこに潜んだ2つのヘゲモニーに焦点を合わせながら議論してみます。

 

国際関係論におけるマルキシズム

国際関係論といえばリベラリズム、リアリズム、コンストラクティビズムといった考えが主流です。しかし、留学に来て気づいたことは政治学(ロシアではПолитология)といった概念が比較的最近になって入ってきたロシアでは、このリベラリズム、リアリズムの概念から抜け出して、経済的・物質的側面を考慮し、国際社会を階層的な観点から見るマルキシズムの概念も同様に国際関係において大きな位置を占めているようです。

 

マルキシスト視点から大まかに3つの観点があります。

 

1.世界システム論

世界システム論はマルキシズムにおける階層的な観点をより拡大解釈したものだといえます。というのは、自由人と奴隷、地主と農奴というブルジョワジーとプロレタリアートといった階層をヘゲモニー国家と従属国という概念に置き換えたからです。

世界システム論者で有名なイマニュエル・ウォーラステイン

「国際社会には二つ以上の世界システムが同時に存在することがあり、歴史的に、オランダ、イギリス、そしてアメリカなどが順に主要な世界システムにおいてヘゲモニー国家を演じてきた。」

と考えています。

 

2.フランクフルト学派と批判理論

批判理論は現実のものを批判的に作り替えていこうという考えに基づき、自由貿易経済に対する批判論を展開します。この考え方はカール・マルクスの理論を利用して生み出された政治運動、労働運動、社会主義的運動を批判し、資本主義批判においてマルクスの理論の価値を見出すことから生まれたもので、資本主義は発展途上国を犠牲にして拡大すると考えた従属理論と相まって、世界システム論の基盤となっているといえます。

 

3.グラムシ主義

アントニオ・グラムシによって始まったこの理論は、国家を国際関係上の主体ととらえたリアリズム・リベラリズム、また逆に主体と客体の分離をなくし、国際社会を構造的な観点から全体的視座で見ようとしたコンストラクティビズムの双方を弁証法的に発展させたといえる。

Cox (Production, Power, and World Order: Social Forces in the Making of History, 1987)

グラムシ主義においても、国際社会においては階級によって確立されるヘゲモニーが存在し、そのヘゲモニーが形成する歴史ブロックがあるとしました。また現在、新自由主義的な超国家的歴史ブロックがあると考えています。この点において、世界システム論に関連してきます。

 

以下、この歴史ブロックを世界システムとします。

 

アラブの春

チュニジアから始まった2010年ー2013年にかけて、そして現在もシリアで続いているアラブ世界の民主化革命においても、マルキシズムの世界システム的な考え方を当てはめてみます。

 

  • アラブ世界システムのヘゲモニーである独裁政権側を打倒しようとする民主化勢力(小さな世界システム内の動き)
  • アラブ世界システムを民主化勢力を支持することで包含しようとするアメリカを筆頭とした自由資本主義勢力圏の世界システムとアラブ独裁政権側の世界に一定の支持をおきアラブでの権益を確保しようとするロシアの対抗ヘゲモニーによる世界システム(大きな世界システムの動き)

後者において、実際にロシアや中国はアラブ諸国に対する安全保障上の決議をしようとする安保理に対し、何度か拒否権を発動し対抗しています。

 

Russia and China have concrete concerns – naval bases, energy resources. … They believe that Great Britain, France, and the United States used an ambiguous U.N. resolution to use military force to overthrow the regimes and reinforce thereby their geopolitical interests.

 (訳)ロシアと中国は、海軍基地そして天然資源に対し具体的な懸念をしている。… ロシア、中国はイギリス、フランス、そしてアメリカがアラブ諸国の体制を転覆させ、それによって地政学的利益を強化するための軍事介入をするために曖昧な安保理決議をしたと信じている。

They perceive the United States as an erstwhile hegemonic power that is not yet ready to acknowledge its decline, which unwillingness they see as the greatest danger in the region. They use their veto in the Security Council to prevent a potential collapse of order in the whole region. 

(訳)ロシア、中国はアメリカをまだ衰退したと受け止めるには至らないかつてのヘゲモニーとして見ていて、アラブ地域における最大の危険とみなしている。そして安保理において拒否権を発動し、その地域全体の規律が崩壊する可能性をなくそうとしているのだ。

The Geopolitics of Arab Turmoil (IMMANUEL WALLERSTEIN , sep,2012, )

 

 アラブの春では、アラブの世界システムをめぐってアメリカを筆頭とする欧米諸国の世界システムとロシア側の世界システムが対立していました。

 

 ウクライナ騒乱

ウクライナを巡ってもロシアとアメリカ・EU諸国の対立が浮かび上がりました。

 

また、ロシアの議会ドゥーマの助言者とも言われるロシアの政治学者アレクサンドル・ドゥギンはアラブでの対立と同じ構造を今回のウクライナ情勢にも見ているようです。

На Украине проявилась одна закономерность: США несет с собой хаос, Россия - порядок. Везде, куда вмешиваются США - Афганистан, Ирак, Ливия, Сирия, Украина, - остаются развалины государств, свихнувшиеся толпы, разделенные на вражующие группировки общества.

(訳)ウクライナ問題では一つの法則性が示された。:アメリカは混沌をもたらし、ロシア秩序をもたらす。アメリカが介入すると必ず、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアそしてウクライナでも人々は狂わされ、社会は分断され、国家は瓦解する。

Александр Дугин: Ненависть к русским и Путину на Украине – это ненависть группы восставших шизофреников к доктору » Политикус - Politikus.ru

 

しかし、ロシアに対する制裁初期の時点において、アメリカと欧州には温度差がありました。

経済的な側面では、天然資源の多くをロシアにEUが依存している、またロシアはEUにとって第3の貿易相手国でありアメリカよりも制裁後に被る不利益が大きいからです。

 

ここで注目したいのはアメリカの自由主義圏の世界システムにおけるヘゲモニーが弱くなっているとするウォーラステインの観点です。

Donald Rumsfeld famously talked of France and Germany as the "old Europe" in contrast to what he saw as the "new Europe" ... The new Europe was for Rumsfeld Great Britain especially and east-central Europe, the countries formerly part of the Soviet bloc. ... One is the U.S. turn towards a Pacific-centrism replacing its long history of Atlantic-centrism.

(訳)ドナルド・ラムズフェルドが彼が考えている”新しいヨーロッパ”とは対照的にフランスとドイツを”古いヨーロッパ”と呼んだのは有名です。… 新しいヨーロッパとはラムズフェルドによると特にイギリス、そしてソ連諸国の一部だった国々です。… 一つはアメリカが大西洋中心主義の長い歴史に代わって、太平洋中心主義へ転換することです。

 

ここでは2003年1月にアメリカのラムズフェルド国防長官が自由主義圏の世界システムの中心的であるフランス、ドイツを古いヨーロッパと呼び、アメリカの政治的関心はむしろ東欧諸国にあると示唆したことで、フランス、ドイツのアメリカへの懐疑を生んだことです。その後、ドイツ・フランスはロシアを除く東欧諸国とアメリカへの対抗に備えてロシアとの関係を強化してきました。

... Germany's only way of dimminishing this threat to its own prosperity and power is an alliance with Russia. And her policy towards Ukraine shows precisely the priority she gives to resolving European issues by including rather than excluding Russia.

(訳)… ドイツにとって、自国の繁栄と強化のためにこの脅威を減らす唯一の方法はロシアとの同盟です。そしてドイツのウクライナに対する政策はまさしく、ドイツがロシアを除外することによってではなくむしろ含めることによってヨーロッパの問題を解決することに優先順位をおいてきたことを示しています。

 

Gaullism has been since 1945 the basic geopolitical stance of France. ... Gaullism is not "leftism" but rather the sense that it is the United States that threatens a continuing geopolitical role for France, and France has to defend its interests by an opening to Russia in order to counterbalance the power of the United States. 

(訳)ド・ゴール主義は1945年以来フランスの基本的な地政学的スタンスであり続けてきました。… ド・ゴール主義は左翼主義というよりはむしろ、フランスの持続的な地政学的役割を脅かすのはアメリカであり、フランスはアメリカとの勢力の拮抗を図るためロシアに開けることによって利益を守らなければならないという意味なのです。

 

こうしたアメリカのヘゲモニーによる世界システムに含まれるドイツ・フランスのロシアのヘゲモニーよりの立場はイラク戦争の時点で形成されていました。2003年3月17日のブッシュ大統領のイラクへの先制攻撃に対しフランス、ドイツはロシアに合わせて強く反対しました。

The nightmare of a Paris-Berlin-Moscow axis has receded a little bit since its acme in 2003, when U.S. efforts to have the U.N. Security Council endorse the U.S. incasion of Iraq in 2003 were defeated by France and Germay.

(訳)パリ・ベルリン・モスクワ連合の悪夢は2003年にイラクへのアメリカの侵略の安保理支持をフランス・ドイツによってはねのけられた全盛期以来少し引いてきていました。

 

ウクライナは「新しいヨーロッパ」としてアメリカが2003年に強調した東欧諸国です。ドイツ、フランスがロシアよりの意思をみせるか、アメリカに足並みを合わせるかは制裁の程度で決まると注視していました。

今回の米EU合意により古いヨーロッパの構図はより弱まっていくように感じます。

 

逆にロシア編入を決めたクリミアのように、モルドバのような旧ソ連諸国(新しいヨーロッパ)の地域のどの程度がロシア的世界システムにまた戻っていくのか注目していきます。

 

国内法と国際法の相違点

問題提起

国内社会における個人、国際社会における国家はそれぞれの社会における法主体であり、個人は国内法により、国家は国際法により規制される。国内法と国際法の法的基盤の違いは何か。国際法の存在根拠は何か。

 

理由

第一に、国内社会には憲法(最高法規)に基づいて、統一的権力を有する国家機関が国内法の制定に関して法的強制力を有する。一方で、国際社会は分権構造社会であり、全ての国際法は、国家主権の原則に基づき、独立権を有する個々の諸国家間の合意のみによって制定され、統一的権力による強制力はなく、国家が自己を拘束する意味合いが強い。つまり、国際法における法主体は、合意をしていない法に強制されない。

第二に、国内法が個々の法の解釈、適用、執行を憲法(最高法規)に最終的に求めるのに対し、国際法は成立過程においてのみならず、その解釈、適用、執行においても国家間の合意に基づく。国際法の解釈、適用、執行に関して、他国は当事国に対して強制力を持たず、平和的に催促し、当事国との合意による解決しか図れない。解釈、適用、執行を国際司法裁判所に求めるためにも関係国同士の同意が必要であり、国際司法裁判所の判決に法的拘束力を認められる根拠もこの関係国同士の合意である。

 

国内法の強制力を最高法規に基づく統一権力に求められるのに対して、国際法は、国家間の合意による取り決めに従うことによる国家の不利益が、合意なしの無秩序により被る不利益より少なくなるという考えによる一定の強制力があるのみである。

 

考察

国内法と比較し、国際法は統一権力がない点で強制力を欠いているが、国際社会の共同利益の享受を目的に、国家同士の合意による協力がより合理的であることから発展してきたものである。

クリミア独立宣言とロシア編入の正当性

18日ロシアのプーチン大統領は、クレムリンで演説後、クリミア自治共和国アクショノフ首相とクリミアのロシア編入を決める条約に署名。その後、欧米諸国とロシアの関係悪化はより深刻なものとなり、制裁の声が相次いでいます。

 

2014年2月27日 クリミア最高評議会及び首相府武力占拠

ウクライナ新政権を支持していたアナトリー・モヒリオフを罷免し、ロシア寄りのセルゲイ・アクショノフを首相に任命する最高評議会の決議がロシアの軍らしき武装勢力の包囲の中行われる。

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3月11日 クリミア自治共和国及びセバストポリ市独立宣言

Декларация о независимости Автономной Республики крым и города Севостополя 

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16日 住民投票 17日 正式に独立を議決

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18日 ロシア編入条約をプーチン大統領とアクショノフ首相が署名

 

プーチン大統領のロシアはこれら手続きをアメリカ、欧州を筆頭とする世界各国の批判、制裁の中強行したのですが、国際法、ウクライナ憲法上の正当性について議論してみます。

 

第一に、クリミアは「一度独立宣言を行い独立国となったのち、ロシアに編入。」という形をとりました。

ロシア側からの視点で見ると、一応、国際法に違反しないラインでクリミアの領域権限を平和的に取得するための選択肢は二つあります。

  1. ウクライナ政府とロシア政府の合意により割譲。
  2. クリミアが独立国家となった後、クリミア政府とロシア政府の合意によりロシアへ編入。

前者は、明らかに、ウクライナ政府が欧米よりの新政府であり、クリミアにおけるロシアの動きに関して警戒、非難している時点で、現状不可能でした。

 

次に問題となるのは「クリミアの独立宣言が国際法的に認められる」かどうかです。

 1.2008年2月17日コソボ共和国独立宣言に関する2010年7月22日のICJ勧告的意見

" ...General international law contains no applicable prohibition of declarations of independence -- Declaration of independence of 17 February 2008 did not violate general international law."

(訳)一般国際法は適応できるいかなる独立宣言の禁止を記載しておらず、、2008年2月17日の独立宣言は一般国際法違反ではない。

 

クリミア独立宣言文書では以下のように、2008年にコソボがセルビアから一方的に独立を宣言したことに対する2010年の国際司法裁判所の勧告的意見を大きな根拠として国際法上の正当性を求めています。

 "... исходя из положений Устава Организации Объединенных Наций и целого ряда других международных документов, закрепляющих право народов на самоопределение, а также принимая во внимание подтверждение международным судом ООН в отношении Косово от 22 июля 2010 года того факта, что одностороннее провозглашение независимости частью государства не нарушает какие-либо нормы международного права, принимаем совместно решение"

   (訳)国連憲章の規定及びその他すべての人民自決における人権を認めた国際文書に基づき、特に、2010年7月22日のコソボに関するICJ勧告的意見における国家の一部の一方的な独立宣言はいかなる国際法規定を違反しないという事実を適用し、以下のよう決定する

 

但し、

"Issues relating to the extent of the right of self-determination and the existence of any right of "remedial secession" are beyond the scope of the question posed by the General Assembly."

(訳)自決権の程度に関する問題及び「救済的分離」のいかなる権利の存在は国連総会に提示された問いの範囲を超えている。(コソボ独立宣言に関する2010年ICJ勧告的意見)

 

とあり、独立宣言は違法ではないが、独立宣言をする権利があることまでの言及は避けており、コソボ独立に正当性があったとは言い切れません。

(しかし、現実的にこの国際司法裁判所勧告的意見の後、コソボの国家承認を渋っていた国々でも国家承認を行う動きが加速し、現在では日本を含む106ヶ国が国家承認をしています。この宣言を例に挙げた当のロシア、また独立問題を抱える中国などは独立を認めていません。)

 

 2.1974年友好関係原則宣言

「宣言や自決権規定のいずれも、自決の原則に従って行動することにより、主権独立国家の行動の領土保全、政治的統一を毀損する行動を承認・奨励するものと解釈してはならない。」

第二次大戦後、国際的に自決権の尊重を掲げてきましたが、植民地独立から少数民族などの少数派の独立への機運が高まり、この友好関係原則宣言により主権国家の政治的統一を妨げる少数派の独立行動は必ずしも認められないとされました。

結果、外的自決(主権国家からの政治的独立を獲得する権利)と内的自決(主権国家の中で自ら政治体制を選択する権利)が分けられました。

 

 3.1998年8月20日ケベック分離事件に関するカナダ最高裁勧告的意見

この勧告的意見において、自決権により例外的に分離する権利が示されました。

  • 人民が植民地の一部として支配されている
  • 外国の征服下に置かれている
  • 内的自決の行使を妨げられ、最後の手段として

この勧告的意見により、ケベック住人は内的自決の行使が妨げられているわけではないとされ分離は認められませんでした。

 

ここで、本題に戻るとクリミアの独立宣言が国際法上違法でなかったとしても、ウクライナ政府により内的自決の行使が妨げられていなければ、クリミア自治政府の分離独立は正当ではないことになります。

事実、1998年にクリミア自治共和国憲法が制定され、ウクライナ国内で自治を認められていたことからも、内的自決が不可能ではなかったことがうかがえます。

 

最後に、「独立宣言後のロシアへの編入に関する条約署名に至るまで」の流れです。

  1.  クリミア自治共和国の国家承認が不十分である
  2. ロシアの不干渉義務違反の可能性

 

1に関して、新たに国家が成立した場合、国際法主体として認められるかどうかについて宣言的効果説(他国による国家承認なしに国際法主体として存在できる)と創設的効果説(他国の国家承認がなければ国際法主体としての資格があるとは言えない)の2つがあります。

ただし、今回のクリミアのように国家の一部が本国から分離・独立する場合には、例外的に創設的効果説だけが当てはまり、他国の国家承認がない限り国際法主体としての権利を持ち合わせていないという結果になります。

独立宣言をしてからロシア編入条約の署名までに、クリミアを国家承認した国は当のロシア一国だけであって、他の世界各国がクリミアを独立国家主体ではなくウクライナ本国の一部としてみなしているのに、この条約が成立するのかに疑問があります。

ロシアの国家承認に関しても、国家成立の4要件(永久的住民、領土、政府、外交能力)を備えていない独立国にたいする国家承認は尚早の承認ですが、ロシア以外の他国との外交能力に欠けているクリミアを国家承認できるのかも不明です。

 

2に関して、ロシアがウクライナへの内政干渉ととらえることができる点です。

  • 2月27日の武装集団の存在
  • ウクライナ新政権樹立の流れに関するロシア側の主張

前者について、もし27日に武力で包囲し、議会に首相交代の決議をさせた武装集団がロシアの手によるものならば、これは完全にウクライナ、ましてクリミアへの内政干渉です。

 

ただ、プーチン大統領は3月4日の記者会見で、

"...Посмотрите на постсоветское пространство - там полно формы, похожей на российскую. И пойдите в магазины и купите. Нет, это силы местной самообороны..."

(訳)旧ソ連地域に目を向けてください、あそこでは完全に制服(軍服)はロシア連邦のものと似通ってますよ。店に行って買ってください。いいえ、地元の自己防衛軍ですよ。

と完全否定しています。

 

後者について、

3月1日、ロシアは2月22日に武装された反政府勢力による行動の結果ウクライナ最高議会がヤヌコヴィチ親ロ大統領の解任、親欧米派の新政権が生まれたことに対して不干渉義務の例外に相当するとし、ウクライナへの軍事介入を議会で承認。

不干渉義務の例外とは、

  1. 相手国政府の要請に基づく介入
  2. 条約により許可されている
  3. 国際法違反行為に対する対抗措置
  4. 外交的保護
  5. 自衛権、国連が平和への脅威とみなす場合

であり、正当な理由であるかは疑問です。

また、民族主義者からクリミア半島のロシア系住民を保護することを名目に国連憲章2条4項を根拠に持つ人道的干渉を行いました。

ただし、武力行使が一般的に禁止されている中で、2条4項が人道的干渉には当てはまらないとする説は濫用の恐れから少数派意見であり、また単独国家による行為は認められているとは言えないのが、国際的見解です。

 

以上のように、ロシア側からの立場でかんがみても、ロシアの主張・やり方には無理があるように感じます。

今後の展開を注視し、国連や安保理、国際司法裁判所などの勧告的意見を待つことにします。

ブログの目的

自己紹介

  • オーストラリア留学
  • ロシア留学中
  • 国際関係学専攻
  • 2014年1月20日より勉強スタート

国際関係学を学ぶ傍ら、ロシア関連の国際事情、またロシア視点の国際関係に興味を持ちロシア語の勉強スタート、そしてロシア留学を決める。 アメリカ、西欧で盛んな国際関係学の見解をより広げるため、旧ソ連諸国の世界の見方にも精通しようと外務専門官を目指すことを決意。なんとなく独学をしはじめてちょうど2か月の今日、ブログ開設。

 

目的

  • 要旨をまとめて論文対策
  • 自己流の初心者要旨を見てもらう
  • 論点等で修正、助言等をいただきたい
  • ロシア関係の国際情勢に対する個人的意見
  • 国際関係に対する意見

大きな目的は、大学での専門でない国際法、憲法、経済学を独学では無理があるのでここに要旨をまとめながら、あわよくばご助言いただけたらと思っています。また専門の国際関係やロシアに関する自分の些細な意見も時事的に残しておこうと思ったためです。

ロシアに留学中は塾に通うこともできないので、何とか取り寄せた参考書を読んで、要旨をまとめつつ、ある程度の知識を付けておこうと思いました。