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外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

条約の無効原則

網羅主義

条約法条約42条1項

「条約の有効性及び条約に拘束されることについての国の同意の有効性は、この条約の適用によつてのみ否認することができる。」

 この条項は無効となる原則がすべてこの条約により網羅されているとする網羅主義をとり、無効原則に首尾一貫性を持たせることにより、条約批准後の紛争の防止を目指した。

46条国内手続き違反47条代表者の権限逸脱48条錯誤49条詐欺50条買収までを相対的な無効51条強制52条武力行使53条上位規範違反絶対的な無効とした。

ここでは、基準が論争となった46条国内手続き違反、48条錯誤、53条上位規範違反に関して議論していく。

なお、49条詐欺と50条買収は今までに判例がない。

 

1.46条国内手続き違反

問題提起

国家が国内法(主に憲法)に違反した状態で、条約を締結した場合、その効力は有効といえるか。

 

理由

条約が国内法に違反する過程としては2種類がある。

第一に、条約内容自体が国内法規定に違反する場合である。この場合は、等位理論の観点から、正規の手続きを経て成立した条約は国際法として有効であるとしている。

第二に、条約締結の手続きが国内法規定に違反していた場合である。つまり合意そのものがが不完全であるといえ、国家の意思に反している状態で条約が締結された可能性がある。

 

考察

後者の点においても、原則的には有効であるとしつつも、条約法条約46条はその手続き違反が国内法上明白であり、かつ重大な規則に関わるものである場合は無効にすることができるとした。

 

2.48条錯誤

問題提起

条約締結時に存在した当事国の錯誤が、その国の合意に至るまでの重大な基礎をなしていた場合、その条約の効力は有効であるといえるか。

 

判例

プレア・ビヘア寺院事件-国際司法裁判所判決・1962年6月15日(百選4事件)

(事案)

カンボジアとタイの両国は国境沿いにあるブレア・ビヘア寺院の帰属を求めて争っていた。1949年以降、当寺院はタイによる実効支配が進められていた。そこで、1959年10月6日、カンボジアが、プレア・ビヘア寺院の帰属、タイ警備兵の撤退、持ち出した美術品の返還を求め一方的に国際司法裁判所に提訴したことに対し国際司法裁判所が判決を下したものである。

 

(判旨)

タイのカンボジアが領有権の根拠とする1907年作成の地図は分水嶺が一致しないという重大な錯誤があったため、無効であるとしたことに対し、

錯誤による無効は

  • 主張を行う当事者本人による行為に起因しているもの
  • 回避できたもの
  • 可能性を想定できた場合のもの

以外の錯誤に認められる確立した法原則とし、タイは自身の行為により承認をし、またそうでなくとも地図に疑念があれば、一方的行為である抗議を行うなどし法的効果を発生することができたはずであるとして、この地図を根拠にプレア・ビヘア寺院の帰属をカンボジアと断定した。

 

(追加)

判決後も、タイとカンボジアはプレア・ビヒア寺院に隣接する4.6平方キロの地帯の領有権を争っていたが、2013年11月11日の国際司法裁判所判決でカンボジアへの帰属が明確に認められ、国境が画定した。

 

考察

条約締結時に存在した当事国の錯誤が、その国の合意に至るまでの重大な基礎をなしていた場合、それが主張を行う当事者本人による行為に起因しておらず、その時点で可能性を想定できずに回避できなかったものであれば無効原因となりうる。

 

3.強行規範(ユス・コーゲンス)

問題提起

「特別法は一般法を破る」という考えに基づき、一般慣習法とは別に締結された条約は独自に効力を有するとされているが、そうした条約をも無効にする上位規範としてのユス・コーゲンス(強行規範)は存在するか。

 

理由

一般慣習法は基本的に条約の自由を認める原則から条約により制限されてきた。しかし、第二次世界大戦後の条約にもある程度の限度を求めるべきだとの声が高まり、条約法条約53条は条約よりもまさる上位規範として強行規範を定め、「一般国際法の強行規範とは、いかなる逸脱も許されない規範として、また、後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によつてのみ変更することのできる規範として、国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範」であると定義した。

 

考察

こうして比較的新しい概念ではあるが、強行規範の必要性は受け入れられつつあり、奴隷貿易を推奨する条約の禁止人身売買の手続きに関する条約の禁止など具体性にはかけるが明確化が進んでいる。