条約の留保と両立性の基準
問題提起
多数国間条約の締結に際し、慣習国際法を明文化する目的で成立した条約法に関するウィーン条約(条約法条約)はある一定の範囲内で、国家が条約に留保付きで加盟できること規定している。したがって、条約の留保は国家の一方的行為であるが、国家承認、政府承認、条約への加入と並び、実定国際法に基づくものであるため、その他の一方的行為とは一線を画し、法的正当性も認められるとする。
条約法条約は、国家による条約の留保をどのような基準に従って認めているか。また、条約の留保は加盟国間の関係の中で、どのように有効性を生じてくるのか。
理由
第一に、条約法条約19条は以下のように定めている。
いずれの国も、次の場合を除くほか、条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入に際し、留保を付することができる。
(a)条約が当該留保を付することを禁止している場合
(b)条約が、当該留保を含まない特定の留保のみを付することができる旨を定めている場合
(c)(a)及び(b)の場合以外の場合において、当該留保が条約の趣旨及び目的と両立しないものであるとき。
(a)(b)の場合は留保が認められないとして、問題となるのは両立性の基準であり、留保が条約の目的との両立性をはからなければならないとした。また、条約法条約では両立性の判断は各締約国にゆだねている。
第二に、歴史的な事例から見て、条約を留保する国家と他の各加盟国との関係は「1927年国際連盟方式」と「1932年汎米連合方式」の二つの方式がある。
前者は、全ての加盟国が当事国の留保に同意しない限り、国家は留保を示したうえで加盟国となることはできないとする方式である。つまり、加盟国の一国でも留保に反対をすれば、加盟を認められないということである。
後者は、条約の留保国は、同意を示した国との間のみにおいて条約の効力が有効になり、反対した国との間では条約は無効であることとした。よって、条約への加盟自体は認められている。
それでは現在の通説はどうであるのだろうか。
判例
ジェノサイド条約の留保事件-国際司法裁判所勧告的意見・1951年5月28日(百選59事件)
(事案)
1949年12月、ソビエト社会主義共和国連邦、ウクライナ、ベラルーシ、チェコ・スロバキアなど多数の国家が留保付きの批准書や加入書を提出したため、国連総会はこの留保の取り扱いに困難を生じ、国際司法裁判所に意見を要請した。
- 留保を申し出た国は、留保を維持したままで当該条約の当事国として認められるか。
- もし当事国と認められる場合、(a) 留保国と留保反対国との間、(b) 留保国と留保受諾国との間で、留保の効果はどうなるのか。
(判旨)
- 当該留保が条約の目的と両立する場合には条約当事国と認められるが、両立しない場合には認められない。(両立性の基準)
- (a) 当該留保を条約の目的とは両立しないと考えて反対する当事国は、留保国を事実上、条約当事国ではないとみなすことができる。(b) 当該留保を条約の目的とは両立すると考えて受諾する当事国は、留保国を事実上、条約当事国とみなすことができる。(両立性の判断は各締約国に委ねられる)
考察
1951年のジェノサイド条約の留保事件に関する国際司法裁判所勧告的意見によると、「1932年汎米連合方式」のように、条約の両立性の判断は各締約国に委ねられ、同意を示した国とは条約が有効になり、反対を示した国とは条約が無効になる。
但し、条約法条約第20条4項によると
条約に別段の定めがない限り、
(a)留保を付した国は、留保を受諾する他の締約国との間においては、条約がこれらの国の双方について効力を生じているときはその受諾の時に、条約がこれらの国の双方又は一方について効力を生じていないときは双方について効力を生ずる時に、条約の当事国関係に入る。
(b)留保に対し他の締約国が異議を申し立てることにより、留保を付した国と当該他の締約国との間における条約の効力発生が妨げられることはない。ただし、当該他の締約国が別段の意図を明確に表明する場合は、この限りでない。
(c)条約に拘束されることについての国の同意を表明する行為で留保を伴うものは、他の締約国の少なくとも一が留保を受諾した時に有効となる。
条約の留保に対し、特段の意義を申し立てない他の締約国との間には、同意なしで、留保付きの条約の効力が発生するとされている点で異なっている。