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外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

国際法の自動執行性

問題提起

国際法に自動執行性が認められる場合、受容方式を採用する国において、国内立法を経ずに直接に国内へ適用することができる。ここで、国際法において自動執行性があるかどうかを明確に判断するための主な基準は何か。

 

理由

国際法に自動執行性があるかどうかの判断基準は二つある。

第一に、法規が具体的かつ明確であり、国内法で補うことなく運用できるという客観的判断基準がある。

第二に、国際法を締結した国家がその時点で、そのような意思を有していたかどうかの主観的判断基準である。

国際法の国内法への適用方式は各国が独自に定めるところに基づくため主観的判断がより重要な基準となってくる。

 

考察

自動執行性の有無の判断は、最終的に各国の国内裁判所の判決によって決定される。

 

以上を踏まえて、現在まで三つの点が自動執行性の有無の根拠とされた。

 

  • 国民の権利義務を定めた内容を含む条約であるかどうか
  • 慣習国際法であるかどうか
  • 条約に規定された内容の実現に向けた国内実施原則をふまえた判断【塩見事件最高裁第一小法廷判決・1989年3月2日(百選 53)/ ヘーグ陸戦条約第 3 条損害賠償請求事件東京地裁判決・2001年10月11日(百選 10)】

 

 

ダンツィヒ鉄道労働者事件‐PICJ勧告的意見・1928年3月3日(百選15事件)

(事案)

1928年3月3日のダンツィヒ鉄道労働者事件PCIJ勧告的意見では、ポーランド国有鉄道行政に従事していたダンツィヒ鉄道の職員はダンツィヒ=ポーランド間の職員協定である国際法に基づき財政的請求を国内機関であるダンツィヒ裁判所に出訴できるかどうかが問題となった。

On September 22nd, 1927, the Council of the League of Nations adopted the following Resolution :

(訳)1927年9月22日、国際連盟理事会は以下の決議を採択した:

“The Council of the League of Nations, having received from the Government of the Free City of Danzig an appeal against a Decision given on April 8th, 1927, by the High Commissioner of the League of Nations at Danzig as to the jurisdiction of the Danzig Courts in actions brought against the Polish Railways Administration by Danzig railway officials who have passed into the Polish service, decides to ask the Permanent Court of International Justice to give it an advisory opinion on the following question :

 (訳)「国際連盟理事会は、ポーランドの国有鉄道行政に従事していたダンツィヒ鉄道の職員によるポーランド国有鉄道行政に対する案件におけるダンツィヒ裁判所の管轄権に関して、ダンツィヒ国際連盟高等弁務官による1927年4月8日の判決に反対してダンツィヒ自由都市政府が正否を求めてきたことをふまえて、常設国際司法裁判所に以下の質問に対する勧告的意見を要請することを決議する:

 

Whereas the Government of the Free City of Danzig requested the High Commissioner on January 12th, 1927, to give the following decision :

(訳)こういった事情で、ダンツィヒ自由都市政府が1927年1月12日に以下の判決を求めて高等弁務官に要請した。

(a)  that railway employees who had passed from the service of the Free City into Polish service, were entitled to bring actions in respect of pecuniary claims, even if these claims were based on the Danzig-Polish Agreement of October 22nd, 1921 (Agreement concerning officials, Beamtenabkommen) or on the declaration made under Article 1 of this Agreement, which was accepted by the Polish Railways Administration ;

(訳)自由都市からポーランドにかけて従事していた鉄道職員は、これら主張が1921年10月22日のダンツィヒ=ポーランド間の職員協定に基づくものであった場合であろうと、ポーランド鉄道行政によって受け付けられた協定の1条のもとにおける宣言に基づくものであった場合であろうと財政的請求に関する行動を起こす権利を有していたかどうか;

 

(b)  that Danzig Courts were entitled to hear the actions referred to in (a) ;

(訳)ダンツィヒ裁判所は(a)で言及された案件を扱う管轄権を有していたかどうか;

(c)  that, consequently, the Polish Railways Administration was bound to accept the jurisdiction of the Danzig Courts in disputes such as those mentioned in (a), and to enforce the judgments given by those Courts ;

(訳)そして結果的に、ポーランド鉄道行政は(a)で述べられたような論争案件におけるダンツィヒ裁判所の判決を受け入れ、これらの裁判所による判決を施行する義務があったかどうか;

... 

 ...

The Decision further lays down that “the clauses of the Agreement itself, and the declarations referred to in Article 1 of the Agreement, are not to be regarded as provisions which constitute the contract of service of the above-mentioned employees, and therefore they cannot give ground for a personal action to be brought in the courts ; under these circumstances, I do not think that the question set out in (c) arises”. … It is, therefore, on this part that the Court is asked to give its opinion as to whether it is legally well founded or not.

(訳)宣言は「宣言の条項それ自体、そして合意の1条において言及された宣言は上記の職員の契約まで含んだ規定とみなされていない、それ故に従業員は個人として裁判所に出訴する権利は与えられていない、(c)に記載された質問自体も生じるものではないとする。」と主張している。… それ故に、この点に関して裁判所はそれが法的根拠があるかないかに関する意見を求められているとする。

 

(判旨)

常設国際司法裁判所はこの協定で個人の権限に関する規定は与えられていないと勧告的意見をだし、今回の件に関して自動執行性は見られなかったと考えられる。

同時に、そうした個人の権利義務を条約に取り込むことは一般的に可能であるとし、国民の権利義務を含む内容である国際法に関し自動執行性がある可能性を示唆している。

 

 シベリア抑留補償請求事件₋最高裁第一小法廷判決・1989年4月(百選 9事件)

 (事案)

シベリア抑留捕虜補償請求事件において、第二次世界大戦後、ソビエト連邦の収容所に強制的に抑留され強制労働を強いられた軍人62名が1949年の「ジュネーヴ第3条約(捕虜条約)」お66・68条に規定された自国民捕虜補償原則に関し、それが慣習国際法として確立しているため国内司法裁判所に出訴できるとして、日本政府に対し損害賠償請求をした。

(判旨)

捕虜条約66条及び68条の自国民捕虜補償原則は慣習国際法として確立していないため、日本政府に対する損害賠償請求は認められない。

(考察)

慣習国際法には自動執行性が認められる可能性がある。