クリミア独立宣言とロシア編入の正当性
18日ロシアのプーチン大統領は、クレムリンで演説後、クリミア自治共和国アクショノフ首相とクリミアのロシア編入を決める条約に署名。その後、欧米諸国とロシアの関係悪化はより深刻なものとなり、制裁の声が相次いでいます。
2014年2月27日 クリミア最高評議会及び首相府武力占拠
ウクライナ新政権を支持していたアナトリー・モヒリオフを罷免し、ロシア寄りのセルゲイ・アクショノフを首相に任命する最高評議会の決議がロシアの軍らしき武装勢力の包囲の中行われる。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
3月11日 クリミア自治共和国及びセバストポリ市独立宣言
Декларация о независимости Автономной Республики крым и города Севостополя
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
16日 住民投票 17日 正式に独立を議決
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
18日 ロシア編入条約をプーチン大統領とアクショノフ首相が署名
プーチン大統領のロシアはこれら手続きをアメリカ、欧州を筆頭とする世界各国の批判、制裁の中強行したのですが、国際法、ウクライナ憲法上の正当性について議論してみます。
第一に、クリミアは「一度独立宣言を行い独立国となったのち、ロシアに編入。」という形をとりました。
ロシア側からの視点で見ると、一応、国際法に違反しないラインでクリミアの領域権限を平和的に取得するための選択肢は二つあります。
- ウクライナ政府とロシア政府の合意により割譲。
- クリミアが独立国家となった後、クリミア政府とロシア政府の合意によりロシアへ編入。
前者は、明らかに、ウクライナ政府が欧米よりの新政府であり、クリミアにおけるロシアの動きに関して警戒、非難している時点で、現状不可能でした。
次に問題となるのは「クリミアの独立宣言が国際法的に認められる」かどうかです。
1.2008年2月17日コソボ共和国独立宣言に関する2010年7月22日のICJ勧告的意見
" ...General international law contains no applicable prohibition of declarations of independence -- Declaration of independence of 17 February 2008 did not violate general international law."
(訳)一般国際法は適応できるいかなる独立宣言の禁止を記載しておらず、、2008年2月17日の独立宣言は一般国際法違反ではない。
クリミア独立宣言文書では以下のように、2008年にコソボがセルビアから一方的に独立を宣言したことに対する2010年の国際司法裁判所の勧告的意見を大きな根拠として国際法上の正当性を求めています。
"... исходя из положений Устава Организации Объединенных Наций и целого ряда других международных документов, закрепляющих право народов на самоопределение, а также принимая во внимание подтверждение международным судом ООН в отношении Косово от 22 июля 2010 года того факта, что одностороннее провозглашение независимости частью государства не нарушает какие-либо нормы международного права, принимаем совместно решение"
(訳)国連憲章の規定及びその他すべての人民自決における人権を認めた国際文書に基づき、特に、2010年7月22日のコソボに関するICJ勧告的意見における国家の一部の一方的な独立宣言はいかなる国際法規定を違反しないという事実を適用し、以下のよう決定する
但し、
"Issues relating to the extent of the right of self-determination and the existence of any right of "remedial secession" are beyond the scope of the question posed by the General Assembly."
(訳)自決権の程度に関する問題及び「救済的分離」のいかなる権利の存在は国連総会に提示された問いの範囲を超えている。(コソボ独立宣言に関する2010年ICJ勧告的意見)
とあり、独立宣言は違法ではないが、独立宣言をする権利があることまでの言及は避けており、コソボ独立に正当性があったとは言い切れません。
(しかし、現実的にこの国際司法裁判所勧告的意見の後、コソボの国家承認を渋っていた国々でも国家承認を行う動きが加速し、現在では日本を含む106ヶ国が国家承認をしています。この宣言を例に挙げた当のロシア、また独立問題を抱える中国などは独立を認めていません。)
2.1974年友好関係原則宣言
「宣言や自決権規定のいずれも、自決の原則に従って行動することにより、主権独立国家の行動の領土保全、政治的統一を毀損する行動を承認・奨励するものと解釈してはならない。」
第二次大戦後、国際的に自決権の尊重を掲げてきましたが、植民地独立から少数民族などの少数派の独立への機運が高まり、この友好関係原則宣言により主権国家の政治的統一を妨げる少数派の独立行動は必ずしも認められないとされました。
結果、外的自決(主権国家からの政治的独立を獲得する権利)と内的自決(主権国家の中で自ら政治体制を選択する権利)が分けられました。
3.1998年8月20日ケベック分離事件に関するカナダ最高裁勧告的意見
この勧告的意見において、自決権により例外的に分離する権利が示されました。
- 人民が植民地の一部として支配されている
- 外国の征服下に置かれている
- 内的自決の行使を妨げられ、最後の手段として
この勧告的意見により、ケベック住人は内的自決の行使が妨げられているわけではないとされ分離は認められませんでした。
ここで、本題に戻るとクリミアの独立宣言が国際法上違法でなかったとしても、ウクライナ政府により内的自決の行使が妨げられていなければ、クリミア自治政府の分離独立は正当ではないことになります。
事実、1998年にクリミア自治共和国憲法が制定され、ウクライナ国内で自治を認められていたことからも、内的自決が不可能ではなかったことがうかがえます。
最後に、「独立宣言後のロシアへの編入に関する条約署名に至るまで」の流れです。
- クリミア自治共和国の国家承認が不十分である
- ロシアの不干渉義務違反の可能性
1に関して、新たに国家が成立した場合、国際法主体として認められるかどうかについて宣言的効果説(他国による国家承認なしに国際法主体として存在できる)と創設的効果説(他国の国家承認がなければ国際法主体としての資格があるとは言えない)の2つがあります。
ただし、今回のクリミアのように国家の一部が本国から分離・独立する場合には、例外的に創設的効果説だけが当てはまり、他国の国家承認がない限り国際法主体としての権利を持ち合わせていないという結果になります。
独立宣言をしてからロシア編入条約の署名までに、クリミアを国家承認した国は当のロシア一国だけであって、他の世界各国がクリミアを独立国家主体ではなくウクライナ本国の一部としてみなしているのに、この条約が成立するのかに疑問があります。
ロシアの国家承認に関しても、国家成立の4要件(永久的住民、領土、政府、外交能力)を備えていない独立国にたいする国家承認は尚早の承認ですが、ロシア以外の他国との外交能力に欠けているクリミアを国家承認できるのかも不明です。
2に関して、ロシアがウクライナへの内政干渉ととらえることができる点です。
- 2月27日の武装集団の存在
- ウクライナ新政権樹立の流れに関するロシア側の主張
前者について、もし27日に武力で包囲し、議会に首相交代の決議をさせた武装集団がロシアの手によるものならば、これは完全にウクライナ、ましてクリミアへの内政干渉です。
ただ、プーチン大統領は3月4日の記者会見で、
"...Посмотрите на постсоветское пространство - там полно формы, похожей на российскую. И пойдите в магазины и купите. Нет, это силы местной самообороны..."
(訳)旧ソ連地域に目を向けてください、あそこでは完全に制服(軍服)はロシア連邦のものと似通ってますよ。店に行って買ってください。いいえ、地元の自己防衛軍ですよ。
と完全否定しています。
後者について、
3月1日、ロシアは2月22日に武装された反政府勢力による行動の結果ウクライナ最高議会がヤヌコヴィチ親ロ大統領の解任、親欧米派の新政権が生まれたことに対して不干渉義務の例外に相当するとし、ウクライナへの軍事介入を議会で承認。
不干渉義務の例外とは、
- 相手国政府の要請に基づく介入
- 条約により許可されている
- 国際法違反行為に対する対抗措置
- 外交的保護
- 自衛権、国連が平和への脅威とみなす場合
であり、正当な理由であるかは疑問です。
また、民族主義者からクリミア半島のロシア系住民を保護することを名目に国連憲章2条4項を根拠に持つ人道的干渉を行いました。
ただし、武力行使が一般的に禁止されている中で、2条4項が人道的干渉には当てはまらないとする説は濫用の恐れから少数派意見であり、また単独国家による行為は認められているとは言えないのが、国際的見解です。
以上のように、ロシア側からの立場でかんがみても、ロシアの主張・やり方には無理があるように感じます。
今後の展開を注視し、国連や安保理、国際司法裁判所などの勧告的意見を待つことにします。