慣習国際法の成立要件
問題提起
慣習国際法として成立され、法的拘束力を認めるためには、どのような要件が必要とされるか。またそれらは国際判例でどのように規定されてきたか。
理由
1969年の北海大陸棚事件国際司法裁判所判決により、慣習国際法の成立要件は定義されているように、慣習国際法の成立要件には、客観的要件として一般慣行、主観的要件として法的信念(opinio juris)を要求する2要件説をとっている。
判例
北海大陸棚事件-国際司法裁判所判決・1969年2月20日(百選1事件)
(事案)
北海大陸棚における境界画定でもめていた西ドイツ、デンマーク、オランダの三国は、どのような国際法原則に基づき大陸棚境界を画定できるかを国際司法裁判所にもとめた。
(判旨)
大陸棚上の境界画定に関して従来より頻繁に用いられてきた等距離原則が慣習国際法かしているかどうかの判断に関して、国際司法裁判所はまず、慣習国際法としての成立要件を確認した。
関係行為は、常に定着した慣行に達していなければならないだけでなく、この慣行がそれを要求する法原則の存在によって義務的なものとみなされているという信念を証明するようなものでなければならず、またはそのような信念を証明するような方法で実行されなければならない。
ごく短期間の経過は、必然的にまたはそれ自体で、もともとまったくの条約上の規則であったものに基づいて新しい慣習法の規則が形成されることを妨げるものではない。
ローチェス号事件-常設国際司法裁判所判決・1926年10月12日
(事案)
ローチェス号とボス・クルト号が公海上で衝突し、志望者が発生したことに関し、トルコ警察はローチュス号のフランス人当直士官ドゥモンとボス・クルト号のトルコ人船長ハッサン・ベイを殺人の容疑で逮捕し、イスタンブール刑事裁判所で有罪判決を下した。フランスは、トルコには裁判管轄権はないと抗議し、両国の合意のもと常設国際司法裁判所に付託された。
(判旨)
確かに裁判権は属地的なものであり、慣習国際法や条約で許容される場合を除いて裁判権は領域の外で行使してはならない。しかしこのことから、領域内において国外で行われた行為に対して裁判権を行使することが国際法上禁止されているということにはならない。
※ただし、現在この考え方は国連海洋法条約第97条「1.公海上の船舶につき衝突その他の航行上の事故が生じた場合において、船長その他当該船舶に勤務する者の刑事上又は懲戒上の責任が問われるときは、これらの者に対する刑事上又は懲戒上の手続は、当該船舶の旗国又はこれらの者が属する国の司法当局又は行政当局においてのみとることができる。3.船舶の拿捕又は抑留は、調査の手段としても、旗国の当局以外の当局が命令してはならない。」の規定において否定されている。
コンゴ外相に対する逮捕状事件-国際司法裁判所判決・2002年2月
(事案)
ベルギーは国際人道法違反に関するベルギー法の普遍的管轄権を根拠に、コンゴ民主共和国の外務大臣に対し逮捕状を発行した。コンゴ民主共和国はこの件に関し、ベルギーを相手取って国際司法裁判所に対して強制管轄受諾宣言に基づき訴訟を提起し、主権平等原則に違反するゆえにベルギーが逮捕状を取り消さなければならないと主張した。
(判旨)
外相が享受する免除を特定的に定義する条約は存在しない。ベルギーは、国際法上の重大犯罪や私的資格すなわち公的任務の遂行以外でなされた行為に対してはいかなる免除も付与されないと主張した。一方、コンゴ民主共和国は、国際慣習法上、現職の外相は、その職務の遂行を他国により妨げられることのないよう、国外で刑事裁判権からの完全な免除と、いかなる政府当局の行為からも保護される不可侵権を享受すると主張した。これに対して、一般慣行上、こうした規則のいかなる例外も見つけることができなかった。したがって、外相が逮捕時に、公的または私的訪問で逮捕国の領域内に在るかどうか、逮捕が外相として行った職務又は職務中に行われたとされる行為に関するものかどうかは問題にならない。さらに、国際法上の犯罪を行った罪で起訴されるような刑事手続からも、現職外相は絶対的免除を享受し、それに対するいかなる例外もない。
インド領通行権事件-国際司法裁判所判決・1960年4月12日(百選3事件)
(事案)
ポルトガルはインド領に囲まれた飛び地の領地を有していた。インドの反ポルトガル勢力はこのポルトガル領地の返還を主張し、ポルトガルのこの飛び地への通行を禁止した。ポルトガルは二国間慣習国際法を根拠に飛び地への通行権を主張し国際司法裁判所に提訴した。
(判旨)
長期間の慣行に基づき地域慣習法を形成しうる国家の数が2以上でなければならない理由がない。
考察
慣習国際法の成立要件には、主に一般慣行と法的信念を必要とする。一般慣行の証明には均一性、一般性、一貫性の3要件を厳格に求められるが、北海大陸棚事件に定義されたように、継続期間の長さに関しては重要視されておらず、一般性に関しても特別影響国間の一般慣行を重視するといった妥協も考えられる。
法的信念に関しても、その存在を主張する国に立証を厳格に行うように求められている。ローチュス号事件やコンゴ外務大臣に対する逮捕状事件において、前者に関しては慣習国際法によって禁止されているとする国際的法的信念がないとされたこと、後者に関してはベルギー法に国際人道法違反に対する普遍的管轄権があるとする法的信念が認められないとしたことにその厳格性が現れている。
慣習国際法はインド領通行権事件でも示されたように二国間慣習法もありうる。