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外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

一方的行為の法源性

問題提起

国際法の法源には形式的法源実質的法源の二種類があるが、一方的行為は条約、慣習国際法ともに形式的法源と呼べるか。また、一方的行為は実質的法源として機能しているか。国家の一方的行為にはどのようなものがあるか。

 

理由

第一に、一方的行為は国家が単独に行う行為であって、条約によって法源性を認められているか慣習国際法になっていないかぎり、法源性は認められないため、法的拘束力を持つ国際法規則としての形式的法源性はないといえる。条約などの実定国際法によって法的拘束力を認められた一方的行為としては国家承認政府承認条約の留保条約への加入などがある。

第二に、実定国際法に基づいていない一方的行為は実質的法源としての役割を果たすことはできるのか。この点に関しては、抗議承認通告約束放棄の5つの点に関して国際判例によって実質的法源性を認められた例がある。

 

判例

  • 抗議

プレア・ビヘア寺院事件-国際司法裁判所判決・1962年6月15日(百選4事件)

(事案)

カンボジアとタイの両国は国境沿いにあるブレア・ビヘア寺院の帰属を求めて争っていた。1949年以降、当寺院はタイによる実効支配が進められていた。そこで、1959年10月6日、カンボジアが、プレア・ビヘア寺院の帰属、タイ警備兵の撤退、持ち出した美術品の返還を求め一方的に国際司法裁判所に提訴したことに対し国際司法裁判所が判決を下したものである。

 

(判旨)

タイが寺院の地図に関し、フランスとの交渉中にいくつかの抗議をする機会があったのにしなかったこと、前内務大臣でシャム王立協会長が寺院を訪れた際に、自国の権原について行動や反応をしなかったことについて、「ある状態、状況、行動を自国が合法と受け入れないことを表明し、自国の法的権利を保持するための一方的行為」である抗議をしていないものとみなし、タイが当時の寺院が描かれている地図を受諾し、カンボジアの寺院管轄を認めたとした。

 

  • 承認

東部グリーンランド事件-常設国際司法裁判所判決・1933年4月5日

(事案)

1931年、グリーンランド東部の無人地帯にノルウェーの捕鯨業者が上陸した後、ノルウェー政府がデンマークのグリーンランドにおける植民地支配は人が住んでいる地域に限られるとして、その地が無主地であったことを根拠に領有権を主張したことに対し、デンマークは自国の領有権がグリーンランド全土に及んでいるとして常設国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

ノルウェー外相イーレンがデンマークとの外交文書の交換の中で「当該問題の解決にいかなる困難ももたらさない」と宣言したことが「他国に対する法的拘束力を認める一方的行為」である承認にあたるとし、ノルウェーはデンマークの東部グリーンランドの主権を争うことはできないとした。

 

  • 通告

ノルウェー漁業事件-国際司法裁判所判決・1951年12月18日

(事案)

ノルウェーの海岸線はフィヨルドであり、その湾口は広いことでイギリスの漁業船も伝統的にフィヨルド内で操業を行なってきた。ところがノルウェーは直線基線を引いてフィヨルド内は自国の領海だとして英国漁船を締め出しはじめた。英国は直線基線の無効性を求めて国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

ノルウェーは領海画定に関する法制度を、国際連盟事務総長への覚書、ノルウェー最高裁判所判決、フランスとの外交文書の交換によって国際的に知らせており、これが法的拘束力を持つ一方的行為としての通告にあたるとして、イギリスはこれを無視することができないとみなし、イギリスの長期にわたる抗議の欠如及び国際共同体の一般的容認を根拠に、ノルウェーの通告という一方的行為の法源性からノルウェーが直線基線を引き領海設定をすることによるイギリスとの対抗に正当な根拠を与えるとした。

 

  • 約束

核実験事件-国際司法裁判所判決・1974年12月12日(百選111事件)

(事案)

1966年以降、フランスが行っていた太平洋沖の環礁での大気圏内核実験に対してオーストラリアはその中止を求めて国際司法裁判所に提訴した。その事案に関し、フランス大統領、外務大臣、国防大臣が次々と核実験の中止を宣言した。

 

(判旨)

一連の大気圏核実験停止の諸表明が、信義誠実の原則をもとに法的拘束力を持つ一方的行為の約束に当たるため、フランス自身を拘束するとした。オーストラリアはこれにより裁判の目的を達成したため判決の必要はなくなったとした。

 

  • 放棄

ニカラグア事件-国際司法裁判所判決・1984年4月9日

(事案)

ニカラグアに反米政権が誕生し、アメリカはニカラグアの反政府組織を支援し、死傷者を出す事態に至った。また、アメリカの石油施設の爆破、領空侵犯などに関し、ニカラグアは内政干渉であると主張し国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

アメリカが敗訴となったが、アメリカは賠償責任に応じなかった。結局、ニカラグア政府と米国政府は和解にいたり、ニカラグアは文書によって「ニカラグア政府は関連事件を基にした今後全ての訴訟の権利を放棄することを決定した。」と示し、自国が保有する法的権利をこれ以上行使しないものとして捨てる一方的行為の放棄に当たるとし、法的正当性が認められた。

 

考察

一方的行為は形式的法源とは言えないが、抗議承認通告約束放棄の5つの点に関して国際判例によって実質的法源性を認められた。