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外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

同意によらない条約の終了・停止

問題提起

効力を発していた条約がその効力を消滅させ、終了もしくは、その効力を一時的に停止するために、条約締結国の同意が必要とされるか。必ずしも必要とされない場合は、どのような原則のもとで行われるか。

 

理由

第一に、効力を発していた条約が、条約締結国の同意なしにその効力を終了・停止するための理由として、条約法条約60-64条に順に

  • 重大な条約違反
  • 後発的履行不能
  • 事情の根本的変化
  • 外交関係の断絶
  • 新たな強行規範への違反

5の理由が規定されている。

 

判例

重大な条約違反の場合

ナミビア事件-国際司法裁判所勧告的意見・1971年6月21日(百選99事件)

(事案)

第一次世界大戦後のパリ講和条約後、1921年より国際連盟からナミビアは南西アフリカとして南アフリカによる委任統治領とされていた。1945年より国際連盟に代わって、国際連合が成立すると、南アフリカは南西アフリカの併合を宣言し不法占領をした。

南アフリカによるナミビアでのアパルトヘイト政策や、ウィントフックの虐殺事件に伴い、1960年12月14日付総会決議第1514号において、南アフリカは委任統治における義務違反であるとし、1966年総会決議第2145号において南アフリカによる委任統治に関する条約を終了させ、同時に南西アフリカは独立まで信託統治領とするとし、安保理決議第276号でこの決定に法的拘束力を与えた

しかし、条約の終了に反対し実効支配を不当に続ける南アフリカに対し、国際司法裁判所は条約の終了の正当性と国連総会決議第2145号を確認する意味で勧告的意見を行った。

 

(判旨)

委任状は条約の性格をもつ国際約束であり、南アフリカはそれに基づく義務を履行していない。委任状の監督機関である国連総会決議第2145号はこの義務違反を理由として、南アフリカのナミビア委任統治を終了させたため、条約の重大な違反による終了といえる。

 

(考察)

一方の当事国による条約に対する重大な違反があった場合は、その他方の締結国は条約終了または停止の根拠とすることができる。

 

後発的履行不能の場合

ガブチコヴォ・ナジマロシュ計画事件-国際司法裁判所判決・1997年9月25日(百選69事件)

(事案)

チェコスロバキアとハンガリーは1977年の条約で、国境のダニューブ川沿いにそれぞれダムと水力発電所を共同建設することに合意した。しかし、ハンガリーは環境への影響などを理由に建設を放棄し、条約の終了を宣告した。ハンガリーは条約の終了の根拠に環境への影響などを用いることができるか。

 

(判旨)

条約の運用停止の理由である後発的履行不能の存在は国際慣習法上の規則であることを認めるとともに後発的履行不能が違法性を阻却するために国際委員会の国家責任条文草案33条の掲げる5つの要件を援用した。すなわち、

  1. 行為が不可欠な利益に起因しているこ
  2. 利益が重大かつ急迫した危険によって脅かされていること
  3. 当該行為がその利益を保護するための唯一の手段であったこと
  4. 相手国の不可欠な利益を重大に侵害するものではないこと
  5. 当該国家が後発的履行不能の発生に寄与していなかったこと

環境上の履行不能はこれらの要件を充足していないとしてハンガリーの1977年条約の不履行を後発的履行不能を理由として正当化することはできないとした。

 

(考察)

後発的履行不能を条約の終了及び停止の根拠とするためには

  • 条約の終了または停止が不可欠な利益に起因していること
  • 利益が重大かつ急迫した危険にあること
  • 条約の終了または停止がその利益を保護するための唯一の手段であること
  • 相手国の不可欠な利益を重大に侵害するものではないこと
  • 当該国家が後発的履行不能の発生に寄与していなかったこと

が満たされている必要がある。

 

事情の根本的変化の場合

アイスランド漁業管轄権事件-国際司法裁判所判決・1973年2月2日

(事案)

1961年の交換公文(条約)によって、イギリスとアイスランドはアイスランド沖合漁業管轄権を12海里としたが、1972年アイスランドが事情の根本的変化(漁業技術の進歩)を理由に50海里に拡大することを一方的に宣言し、イギリスが国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

漁業技術の変化は、本案判決に適切な関係を持ちうるが、一方の当事国の生存またはその生存に必要な発展を危うくするものであるという伝統的見解に合致せず、根本的変化とはいえない。 

義務履行を最初に引き受けられたものとは本質上異なるものにする程度にまで果たされるべき義務の負担を増大させるものでなければならないが、漁業技術の進歩が交換公文(条約)に規定された義務の範囲を根本的に変えたとはいえない。

 

(考察)

事情の根本的変化による条約の終了及び停止を行うためには、

  • 当該変化が予見しえなかったものであり、条約に拘束されることに関する当該国の不可欠の基礎をなしていたこと
  • 当該変化が条約に規定された義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること

でなければならない。