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外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

国際法と国内法の関係性と等位理論

問題提起

国際法と国内法の内容が互いに矛盾し抵触しあっている場合、理論的な観点から、また現実的な観点からもどのように対応するのか。

 

理由

この場合に対応する理論には4種類あり、以下の順番で国際的見解が発展してきたといえる。

  1. 国内法優位の一元論
  2. 二元論
  3. 国際法優位の一元論
  4. 等位理論(調整理論)ー柔軟な二元論

第一に、国内法優位の一元論は国際法が依然、国家の合意によるものであり国家の自由を規制するという意味合いが薄かった19世紀に現れた。国際法は国内法規のもとに規定されて初めて効力を発揮するというものである。問題点は、慣習国際法がすべての国家を拘束することや憲法(最高法規)をはじめとする国内法規が変わっても条約の効力が持続するということを説明できない点である。

 

第二に、二元論はヨーロッパで100年の平和が続き1899年1907年のハーグ平和会議が開かれる頃に主流となった。国内法と国際法を全く異なる領域に存在する法体系とみなし、国内法と国際法が抵触することはありえないと考えた。国際法と矛盾する国内法が存在しても国内法はその国内法としての効力を有し、その国内法を制定した国家が国際法に関する責任を果たしていないと考えられるにとどめている。問題点は、国内法への自動執行性をもつ国際法や慣習国際法の存在など、現実的側面で国内法と国際法が完全に独立していると考えにくい点である。

 

第三に、国際法優位の一元論は第一次世界大戦後、国際連盟の設立や不戦条約と相まって、各国が平和的協力を目的に国際法に強い拘束力を求めた時期に主流となった。国際法に基づき国内法は規定されなければならないとするものである。問題点は、国際法違反の国内法を無効にできる強力な国際法規の不在や個人への適用といった国内管轄事項を説明できないことである。

 

最後に、現在の国際上の通説として等位理論の存在がある。より柔軟な二元論であり、国内法と国際法が直接的に同時に作用する領域は存在しないとするうえで、抵触する可能性を認め、その場合に国際的場面では国際法優位、国内的場面では国内法優位とする対応をしている。

 

判例

シシリー電子工業会社事件-国際司法裁判所判決・1989年7月20日

(事案)

Whether, by preventing two United States corporations from liquidating their wholly-owned Italian corporation, Italy violated their rights under the Treaty of Friendship, Commerce and Navigation or its Supplementary Agreement.

Whether the United States' claim was inadmissible for failure to exhaust local remadies.

(訳)アメリカ合衆国の2企業がイタリアの全額出資企業を解体することを妨害することにより、イタリアは通商航海友好条約及びその補足協定下の権利を侵すことになるかどうか。

 

(判旨)

Yet it must be borne in mind that the fact that an act of a public authority may have been unlawful in municipal law does not necessarily mean that that act was unlawful in international law, as a breach of treaty or otherwise.

(訳)しかし、公権力の国内法違反であった可能性のある行動が必ずしも、条約の履行違反であるとして、またはそうでなくとも、国際法違反であったとは言えないという事実を覚えておかなければならない。

 

Nor does it follow from a finding by a municipal court that an act was unjustified, or unreasonable, or arbitrary, that that act is necessarily to be classed as arbitrary in international law, though the qualification given to the impugned act by a municipal authority may be a valuable indication.

(訳)国内権力によって与えられた嫌疑のある行為に対する資格もまた価値のある参考案件にはなるとはいえるものの、行為が不当、不合理または独断的の何れかであったということやその行為が国際法で恣意的あると位置づけられる必要のあるものだということは国内司法裁判所の裁定に基づくものではない

 

砂川事件-東京地裁判決・1959年3月30日‐最高裁判所判決・同年12月16日

(事案)

1957年7月8日に基地拡張に反対するデモ隊の一部が、アメリカ軍基地の立ち入り禁止基地内に数m立ち入ったとして、デモ隊のうち7名が日米地位協定に基づく刑特法違反とされた。

 

(判旨)

東京地裁

日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無にかかわらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲である。したがって、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条(デュー・プロセス・オブ・ロー規定)に違反する不合理なものである。

 

最高裁

憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない。

 

考察

国際司法裁判所や国家実行上をかんがみても、現在の通説は等位理論である。

  • 国家は国内法上の規定を根拠に国際法上の義務を免れることはできない。国際法上の義務を果たすためには矛盾した国内法を取り消さない限り国際責任が付きまとう。
  • 国際法に矛盾した国内法が無効になるわけではない。

国際法と国内法が抵触した場合には、国際法場面では国際法が国内法場面では国内法が優位に判断されることになる。