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1.ブログの目的2.国際法3.時事問題・国際関係

外務専門職をめざして

国際法・憲法判例、要旨まとめ、経済学等試験勉強のため。国際関係学、ロシア等に関する個人的意見。助言、訂正お願いします。

国連加盟と国家承認

問題提起

成立した新国家が国際連合に加盟した場合に、その国家を国家承認していない他の国連加盟国と新国家の関係性はどうなるか。

 

理由

国連の実行では、新国家の国際連合への加盟は国際連合全加盟国による集団的行為であり、国家の個別的行為である国家承認とは何の関係性もないものとする。つまり、新国家の国際連合加盟は、非承認国家による国家承認とはみなされない。

 

考察

新国家が国際連合に加盟すること自体が、その国家を国家承認していない他の加盟国と新国家との関係性に新しい影響を与えない。

他国による国家承認

問題提起

国家は国家として事実上成立と同時に、国際法主体性を得るものとして考えられているか。それとも、他国による国家承認により与えられるものであるか。国家承認が必要とされる場合、国家は何を基準に承認をするのか。

 

理由

第一に、国家が永久的住民明確な領域政府外交能力の国家成立の4要件を備えている状態で事実上成立すると同時に国際法主体性を得るとする説を宣言的効果説といい、他国に国家承認を与えられて初めて国際法主体性を得るものを創設的効果説という。

第二に、創設的効果説を採用すると、国家承認を与えた国との間と、国家承認を与えない国との間で国際法の適用範囲が異なってくるという複雑さを持つことになる。これらの理由から、一般的には国家承認は、単に国家が成立したという事実を確認するにとどまり、宣言的効果を持つと考えられる。

しかし、国家の一部が、本国との内戦や革命といった闘争を経て分離・独立した結果生じた場合には、国家成立の4条件が満たされている場合において、独立性の明確性をはかるために国家承認に創設的効果をもたせることが通説となっている。

 

以上より、国家承認が問題となるのは、国家の一部が分離・独立した後に成立したため、創設的効果をもつ国家承認が必要となる場合である。というのも、国家成立の4要件を備えていない場合に国家承認をすると「尚早の承認」として本国への内政干渉とみなされうるからである。特に、これが問題になった事件として、旧ソ連や旧ユーゴスラビアの解体、そしてコソボ独立紛争がある。

 

判例

旧ユーゴスラビア和平会議-仲裁委員会・1992年1月11日意見

(事案)

Does the Serbian population in Croatia and Bosnia and Herzegovina, as one of the constituent peoples of Yugoslavia, have the right to self-determination?

(訳)ユーゴスラビアの構成民の一部として、クロアチアとボスニア・ヘルツェコビナのセルビア系人種は自決権を有するか。

Can the internal boundaries between Croatia and Serbia and between Bosnia and Herzegovina and Serbia be regarded as frontiers in terms of public international law?

(訳)クロアチアとセルビア間、ボスニア・ヘルツェコビナとセルビア間の内部境界は公的国際法に関連する国境とみなしてよいか。

 

(判旨)

the Serbian population in Bosnia and Herzegovina and Croatia is entitled to all the rights concerned to minorities and ethnic groups ... and the Republics must afford the members of those minorities and ethnic groups all the human rights and fundamental freedoms recognized in international law, including, where appropriate, the right to choose their nationality.

(訳)ボスニア・ヘルツェコビナやクロアチアにおけるセルビア人は少数民族に関連する全権を有している。共和国はこれら少数民族に対し、適用可能な限り、彼らが国籍を選ぶ自由を含め、国際法でみとめられるすべての人権と基本的自由を与えなければならない。

 

Except where otherwise agreed, the former boundaries become frontiers protected by international law.

(訳)別段に合意のある場合を除き、旧内部境界は国際法で保障された国境となるといえる。

 

旧ユーゴスラビアの解体に伴い成立した新国家の承認に対しては、国家成立の4要件に加えて、少数民族の権利の保障、国境線の不可侵の原則を承認の条件に加えた。

 

コソボ独立宣言事件-国際司法裁判所勧告的意見・2010年7月22日

(事案)

Is the unilateral declaration of independence by the Provisional Institutions of Self-Government of Kosovo in accordance with international law?

(訳)コソボ暫定自治政府による一方的な独立宣言は国際法と一致したものであるか。

 

(判旨)

...General international law contains no applicable prohibition of declarations of independence.

(訳)一般国際法は適応できるいかなる独立宣言の禁止を記載していない。

 

コソボの独立宣言は国際法違反ではないと国際司法裁判所は勧告的意見をだし、その後多くの国がこれを判断材料として国家承認を行った。

 

考察

新国家が永久的住民、明確な領域、政府、外交能力の4つの要件を満たしている限り、新国家は国際法主体性を認められるべきである。しかし、それが国家からの独立・分離により生じたものである場合は創設的効果を持つ国家承認を必要とする。

日本の捕鯨と国際司法裁判所判決

2014年3月31日に南極海における捕鯨事件をめぐる日本とオーストラリアの紛争に対し、国際司法裁判所の判決がくだり、ほとんど日本の全面敗訴という形で終結しました。

 

2010年5月31日 オーストラリアが南極海の日本の調査捕鯨に関し、国際司法裁判所に提訴

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2013年6月 裁判所で口頭弁論が開始

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2014年3月31日 国際司法裁判所による日本の敗訴判決

調査捕鯨ではなく商業捕鯨であるとみなされ、国際捕鯨取締条約及び南極条約違反であるとし、日本の南極海における調査捕鯨の取りやめるよう宣告される。

 

これに対して同日、日本は

日本は国際法秩序および法の支配を重視する国家として判決に従う。

との官房長官談話を発表し、

4月2日には安倍首相が

非常に残念で深く失望している。しかしながら日本としては判決には従う。

と述べ、国際司法裁判所の法的拘束力に則り、判決を遵守する姿勢を示しました。

 

ここで、今回の捕鯨問題をめぐる国際法上の流れや経緯について、日本の捕鯨に関する抗議を行う環境保護団体を少しまじえ、議論していきたいと思います。

 

1959年南極条約

南緯60度以南の地域において

  • 領土権の凍結
  • 平和利用
  • 科学調査の自由と協力

の三大原則を掲げる。

 1.領土権の凍結

南極条約4条において、条約締結時に主張されていた締結国領土以外の地域で新たな領有権の主張を禁止しました。つまり、既に主張されていたフランス、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、ノルウェーなどの領有権は凍結されたものとして、放棄されたものとはみなされていません。

2.平和利用

南極条約1条では、一切の軍事利用が禁止されました。

3.科学調査

南極条約2条、3条において、南極地域の開発、科学調査は各国の国際協力のもと推進されていくものとされた。

 

今回の、日本とオーストラリアの捕鯨に関する紛争においても、この南極条約で言う領土権と科学調査が主眼となっているといえます。

 

1980年南極の海洋生物資源の保存に関する条約

南緯60度と南極収束線の間にある魚類、軟体動物、オキアミ等の資源量を配慮し、捕獲量、捕獲区域、捕獲方法などが制限される。

 

国際捕鯨取締条約 International Convention for the Regulation of Whaling

この条約の流れは、1931年ジュネーブではじめて署名されたのち、1937年に国際捕鯨取締協定がロンドンで結ばれ、最終的に現在の1946年ワシントン締結の国際捕鯨取締条約が効力を発しています。

日本は最後の1946年条約にのみ1951年4月21日より加入を表明しています。

 

オーストラリアは今回の事件において、

日本の調査捕鯨はこの国際捕鯨取締条約第8条で認められる科学的調査目的の特別捕獲に当たらず、商業捕鯨とみなされるため非合法である」としています。

つまり、日本の捕鯨がこの国際捕鯨取締条約第8条に規定された科学的調査目的の捕鯨に当たるかどうかが論争の中心です。

この第8条は1959年の南極条約の科学調査の自由、国際協力にも合致するものです。

 

国際捕鯨取締条約第8条

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。また、この条の規定による鯨の捕獲、殺害及び処理は、この条約の適用から除外する。各締約政府は、その与えたすべての前記の認可を直ちに委員会に報告しなければならない。各締約政府は、その与えた前記の特別許可書をいつでも取り消すことができる。

2.前記の特別許可書に基いて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。

3.各締約政府は、この条の第l項及び第4条に従って行われた研究調査の結果を含めて鯨及び捕鯨について同政府が入手しうる科学的資料を、委員会が指定する団体に、実行可能な限り、且つ、l年をこえない期間ごとに送付しなければならない。

4.母船及び鯨体処理場の作業に関連する生物学的資料の継続的な収集及び分析が捕鯨業の健全で建設的な運営に不可欠であることを認め、締約政府は、この資料を得るために実行可能なすべての措置を執るものとする。

 

日本は、一時反発の意向を示したものの、1982年に国際捕鯨委員会(IWC)で採択された商業捕鯨モラトリアムに基づき1986年に商業捕鯨を取りやめ、1987年より本格的に調査捕鯨を始めます。

 

※商業モラトリアム・・・1982年より10年間商業捕鯨を停止するというもの。1994年には、条約5条1項 (c) にもとづき南極海をサンクチュアリ(捕獲対象外の保護区域)としている。

 

これに基づいて日本は南極海と北大西洋において特別許可書を発行し科学調査を名目に、捕鯨をはじめます。南極海のものはJARPA(Japan's Whale Research Program under Special Permit in the Antarctic)とし、北太平洋のものはJARPN(Japan's Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific)としています。

 

今回の訴訟は前者に対するもので、特に1987-2005のJARPAⅠに代わって2006年より始まったJARPAⅡに対して行われたものでした。

 

南極海における捕鯨事件-国際司法裁判所判決・2014年3月31日

 

  • 日本の主張

第一に、今回の訴訟は国際司法裁判所規定36条2項選択条項に基づき、オーストラリアと日本が管轄受諾宣言をすでにしていたため、国際司法裁判所にすでに管轄権があるとして、両国の特別の合意なしに始まったものとされているが、日本はこの点に対してオーストラリアの管轄受諾宣言中の留保を主張の根拠の一つとしています。

オーストラリアは、領海や排他的経済水域が係争中である海域に関係している開発利用に関係する紛争を国際司法裁判所の強制管轄権の及ぶ範囲から除外している。

(オーストラリアの管轄受諾宣言における留保)

b.海洋水域(領海、排他的経済水域、及び大陸棚)の画定に関する(concerning)紛争、もしくは関連している(related to)紛争を除く。及び、海洋水域(領海、排他的経済水域、及び大陸棚)が係争中である海域もしくはこれに隣接する海域の開発利用から生じるか、開発利用に関するか、もしくは開発利用に関連している紛争の場合を除く。

 この場合の、領海や排他的経済水域が係争中である海域とは1959年の条約で領土権が凍結された南極におけるオーストラリアの領土で「マクドナルド諸島(東経72°36′04″)とオーストラリア大陸最西端のルーウィン岬を結ぶ線、および、マッコーリー島(東経158° 51′)とタスマニア島南端のサウス・イースト岬を結ぶ線の範囲内で南緯60度以北からオーストラリア大陸までを南極海の範囲」のことです。

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 日本はこの部分が係争地域にあたるとして、管轄権の存在を否定しました。

 

第二に、日本の捕鯨は科学調査に大きな貢献をもたらしているとするものです。

第三に、科学調査かどうかの判断は、恣意的な考えに則って行っていいものではなく、オーストラリアの独断で判断するのはおかしいというものです。

 

この2点に関しては、

自然科学雑誌『ネイチャー』の「Japan's whaling plan under scrutiny」において、致死的捕獲を必然的に伴う日本政府の科学研究プログラムから生じた査読論文は極めて少数にとどまっているばかりか、また国際捕鯨委員会の雑誌『Journal of Cetacean Research and Management』にも日本の研究内容に関する論文がないことなどが非難の対象とされていたり、国際学術的にも科学的有用性に乏しいとされている点で、なかなか厳しい主張だったのではないかと思います。

 

日本はこの批判に対して、科学調査のための捕鯨をシーシェパードのようなエコテロリスト団体に妨害され円滑な調査ができなかったと主張し、反論しています。紛争当事国であるオーストラリアがシーシェパードの寄港国となっているなどの点から、オーストラリアには科学調査について主張する権利はないとしています。

 

実際にシーシェパードの設立者ポール・ワトソンは国際刑事警察機構によって現在国際指名手配犯とされています。

また国際環境保護団体グリーンピースも数度にわたり日本の捕鯨船と接触事故をおこしています。

 

(判旨)

国際司法裁判所はこの国際捕鯨取締条約8条の「科学調査目的の捕鯨(whaling for purposes of scientific research)に関して、「科学調査"scientific research"」と「目的"for purposes of"」の二つに分けてその妥当性の審査基準をまず示した。

... even if a whaling programme involves scientific research, the killing, taking and treating of whales pursuant to such a programme does not fall within Article VIII unless these activities are “for purposes of” scientific research.

(約)たとえ捕鯨計画が科学調査と関わるものであるとしても、そのような計画に準じた鯨の殺傷、捕獲、扱いはこれらの活動が科学調査「目的のため」のものでない限り、8章の範囲の行動であるとはいえない。

 

1.科学調査

"Scientific research"

 The Court notes that the term “scientific research” is not defined by the Convention and that Australia ... maintains that scientific research has four essential characteristics:

  • defined and achievable objectives that aim to contribute to knowledge important to the conservation and management of stocks;
  • “appropriate methods”, including the use of lethal methods only where the objectives of the research cannot be achieved by any other means;
  • peer review; and
  • the avoidance of adverse effects on stock. 

 (訳)裁判所は「科学調査」という用語は国際捕鯨委員会によっても、またオーストラリアが4つの本質的な性質として定める

  • 個体数の保護と管理のために重要な知識に貢献しようとする明確で達成可能な目的
  • 研究目的が他の手段によって達成できない場合のみに用いられる殺傷手段の使用を含む「適切な方法」
  • 事後審査
  • 個体の管理における不都合な影響の回避
によっても定義されるものではないとする。

 

2.「目的」

"for purposes of"

The Court reiterates that in order to ascertain whether a programme’s use of lethal methods is for purposes of scientific research, ... Such elements may include:

  • decisions regarding the use of lethal methods;
  • the scale of the programme’s use of lethal sampling;
  • the methodology used to select sample sizes;
  • a comparison of the target sample sizes and the actual take;
  • the time frame associated with a programme;
  • the programme’s scientific output; 
  • the degree to which a programme co-ordinates its activities with related research projects. 

(訳)裁判所は致死的手段の計画的使用が科学調査の目的のためのものであるかどうかを確認するために以下の要素に基づくことを確認する:

  • 致死的手段の使用に関わる決定
  • 致死サンプルの計画的使用の規模
  • サンプル量の選択に用いられた方法
  • 標的サンプル量と実際の採取量の比較
  • 計画と関連する時間設定枠
  • 計画の科学的成果、収穫
  • その計画が関連する調査計画と活動を調整する度合い

 

 これに関し国際司法裁判所は「目的」のうちの要素の最初の2点と照らし合わせ日本のJARPAⅡの妥当性を判断しました。

 

1.致死的手段の使用に関わる決定

(a) Japan’s decisions regarding the use of lethal methods

 The Court finds no evidence of studies by Japan of the feasibility or practicability of non-lethal methods, either in setting the JARPA II sample sizes or in later years in which the programme has maintained the same sample size targets, or of any examination by Japan whether it would be feasible to combine a smaller lethal take and an increase in non-lethal sampling as a means to achieve JARPA II’s research objectives. 

(訳)裁判所は非致死的方法での調査の実行可能性に関する日本の研究、またJARPAⅡのサンプル量の設定、計画が同様のサンプル量を標的としたまま維持された近年の実行、またJARPAⅡの研究目的達成のための手段としてより少量の致死的採取におさえ、非致死的サンプルを増加させることが実行可能であるかどうかに関する日本のいかなる研究においても何ら根拠が見受けられなかったとした。

 

2.致死サンプルの計画的使用の規模

(b) The scale of the use of lethal methods in JARPA II 

… coupled with its statement that JARPA II can obtain meaningful scientific results based on a far more limited actual take, cast further doubt on the characterization of JARPA II as a programme for purposes of scientific research. This evidence suggests, in fact, that the target sample sizes are larger than are reasonable in relation to achieving JARPA II’s stated objectives

(訳)JARPAⅡがはるかに制限された採取量に基づいて意味のある科学的結果を得ることができるというその主張と相まって、JARPAⅡの性質が科学調査のための計画であるのかどうか疑いようがない。この根拠が実際に標的サンプル量がJARPAⅡの主張した目的の達成との関連上適当な量よりも多いことを示している。

 

 以上より「日本の調査捕鯨と称する捕鯨は国際捕鯨取締条約8条のもとの調査捕鯨とは言えない。」という判決が下されました。

矛盾する国際法間の関係

問題提起

存在する二つ以上の国際法が互いに矛盾する内容であるとき、その矛盾をどのように解決するか。

 

理由

第一に、条約法条約30条2項により、「後法は前法を廃する」という原則が適用される。また、3項では前法と後法の関係当事国が同一である場合に限り、この法則が適用されるとし、4項では関係当事国が2国以上であり、前法の当事国のすべてが後法の当事国となっていない場合、この原則は前法と後法両方の関係当事国間のみによって適用されるとした。例外として、同条1項は国連憲章103条に矛盾する新しい国際法にはこの原則は適用されず、このパラライザー規定に従って効力を凍結されるとしている。

第二に、国家主権に基づき、「特別法は一般法を破る」という原則が適用され、条約が慣習国際法と矛盾する場合は条約の関係当事国間のみにおいて条約が優先すると考えられている。しかし、例外として条約法条約53条において「締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は、無効である。」と定め、いかなる条約にも優先する慣習国際法としての強行規範が存在するとした。

 

考察

条約同士、慣習国際法同士が互いに矛盾しあっている場合は、関係当事国間において後法が優先する。ただし、国連憲章103条に矛盾する条約は後法であってもパラライザー規定により効力が凍結される。

条約と慣習国際法が矛盾しあっている場合には、関係当事国間において条約が優先する。ただし、慣習国際法が強行規範である場合は、その条約は効力をもたない。

 

 

衡平の法源性

問題提起

国際法の法源には形式的法源実質的法源の二種類があるが、衡平の原則は条約、慣習国際法ともに形式的法源と呼べるか。または、実質的法源として機能しているか。また衡平の原則にはどのような種類があるといわれているか。

 

理由

第一に、衡平とは国際法上定義できない部分を、現実的、実質的観点からアプローチする原則であるため、形式的法源ではない。現実的、実質的側面とは平等公正合理性などが当てはまる。

第二に、衡平は国際判例でも提示された例のある実質的法源であるといえる。

第三に、衡平の原則には、実定法の解釈運用や、国際裁判の判定理由としてしばしとりあげられる補足的手段としての法の下の衡平(intra legem 又はinfra legem)、国際法上、規定されていない具体的な事情をより考慮するための手段としての法を補充する衡平、そして国際法の規定では、良くない結果がもたらされる可能性のある場合に、当事者の合意により「衡平と善」のより国際法とは離れて用いられる法に反する衡平(ex aequo et bono又はcontra legem)がある。ただし、国際法から離れてしまう法に反する衡平の原則を用いた裁判は今まで行われた例はない。

 

判例

(法の下の衡平)

ブルキナファソ=マリ国境画定事件-国際司法裁判所判決・1986年12月22日(百選6事件)

(判旨)

3. The role of equity (paras. 27-28)

The Chamber then considers whether it is possible, in this case, to invoke equity, concerning which the two Parties have advanced conflicting views. Obviously the Chamber cannot decide ex aequo et bono, since the Parties have not requested it to do so. It will, however, have regard to equity infra legem, that is, that form of equity which constitutes a method of interpretation of the law in force, and which is based on law. 

(訳)3.衡平の役割(27-28項)

議会は次に、この場合において、両当事者が高度に対立した意見を持っていることに関連して、衡平の原則の訴えることが可能であるかどうかについて審議する。明らかに、議会は両当事者の合意を得ずして、ex aequo et bono(衡平と善)により決定することはできない。しかしながら、infra legem(法の下の衡平)を配慮する、つまり法に基づく衡平、有効な法の解釈となる衡平の原則を配慮することはできる。

 

(法を補充する衡平)

北海大陸棚事件-国際司法裁判所判決・1969年2月20日(百選1事件)

(判旨)

大陸棚条約第6条で規定された等距離原則は慣習国際法化しているとは言えない。大陸棚の境界画定は当事国間の合意によってなされなければならず、その合意は衡平原則に基づかなければならない。各国はこの衡平原則に基づき、それぞれの国に領土の自然の延長となる大陸棚部分ができるだけ多く割り当てられる方法で合意すべきであり、大陸棚はその国の領土の自然の延長でなければならず、他国領土の自然の延長を成す他国の大陸棚に侵入してはならない。そのため当事国は合意に達する目的で交渉を行い、その交渉を有意義なものとするよう行動する義務を負う。

 

考察

衡平の原則は、平等、公正、合理性などを補充する現実性、実質面に即したその性質上、形式的法源性はもたず、実質的法源性を有するものとして扱われる。国際判例上、法の下の衡平(intra legem 又はinfra legem)や法を補充する衡平は存在しているが、「衡平と善」に基づく、法に反する衡平(ex aequo et bono又はcontra legem)は依然、判例上確立してはいない。

国際組織の決議の法源性

問題提起

国際法の法源には形式的法源実質的法源の二種類があるが、国際組織の決議は条約、慣習国際法ともに形式的法源と呼べるか。または、実質的法源として機能しているか。対外的決議対内的決議ではその性質は異なるか。

 

理由

第一に、ソフトロー理論のように国連総会決議が加盟国に一定の限度を定めたり、指針を示す点で形式的法源性を認め、法的拘束力を持たせようとするものもあるが、国際組織の決議は国連憲章13条が「総会は、次の目的のために研究を発議し、及び勧告をする。」と定義するようにあくまでも勧告にすぎず、形式的法源性はないといえる。

 

※ソフトロー理論

  • ソフトローの定義

Most Resolutions and Declarations of the UN General Assembly

Elements such as statements, principles, codes of conduct, codes of practice etc.; often found as part of framework treaties;

Action plans (for example, Agenda 21);

Other non-treaty obligations

(訳)国連総会のほとんどの決議や宣言

   声明、原則、行動規範や実効性の規範といった要素;頻繁に枠組み条約の一部として

   行動計画(例、アジェンダ21)

   その他の非条約義務

 

第二に、国連総会決議は、1948年の世界人権宣言が1966年の国際人権規約条約として条約化したように、ハードローとして条約として実現する発端となりうること、また慣習国際法となるための法的信念を創出する点で、形式的法源を作るもとになれる。よって実質的法源性は有しているといえる。

 

(判例)

核兵器使用・威嚇の合法性事件-国際司法裁判所判決・1996年7月8日(百選109事件)

(判旨)

国連総会決議は法的拘束力を持たない勧告にすぎないが、規範的価値を持つことはありうる。一定の状況下で総会決議は法的信念の形成の根拠となりうる。

 

最後に、以上のように対外的な総会決議に関しては実質的法源性をもつ可能性を秘めているといえるが、対内的決議に関してはどうか。対内的決議は内部の事務処理、組織の規則等に関するものであるため、一定の法的拘束力をもつが、それらは決議によるものではなく、基本条約にもとづくものであるため、決議自体にこの場合において、法源性を認められるとは言えない。

 

※安全保障理事会の決議の法源性

国連安全保障理事会の決議には法的拘束力があるが、これは国連憲章25条によるものであり決議自体に法源性を認めることはできない。

 

考察

国際組織の決議は、その対外的決議において、形式的法源とはみなすことはできないが、しばしば実質的法源性を認めることはできる。ただし、それに当てはまるかどうかは内容及び条件を考察する必要があり、法的信念の存在についても考える必要がある。

 

 

一方的行為の法源性

問題提起

国際法の法源には形式的法源実質的法源の二種類があるが、一方的行為は条約、慣習国際法ともに形式的法源と呼べるか。また、一方的行為は実質的法源として機能しているか。国家の一方的行為にはどのようなものがあるか。

 

理由

第一に、一方的行為は国家が単独に行う行為であって、条約によって法源性を認められているか慣習国際法になっていないかぎり、法源性は認められないため、法的拘束力を持つ国際法規則としての形式的法源性はないといえる。条約などの実定国際法によって法的拘束力を認められた一方的行為としては国家承認政府承認条約の留保条約への加入などがある。

第二に、実定国際法に基づいていない一方的行為は実質的法源としての役割を果たすことはできるのか。この点に関しては、抗議承認通告約束放棄の5つの点に関して国際判例によって実質的法源性を認められた例がある。

 

判例

  • 抗議

プレア・ビヘア寺院事件-国際司法裁判所判決・1962年6月15日(百選4事件)

(事案)

カンボジアとタイの両国は国境沿いにあるブレア・ビヘア寺院の帰属を求めて争っていた。1949年以降、当寺院はタイによる実効支配が進められていた。そこで、1959年10月6日、カンボジアが、プレア・ビヘア寺院の帰属、タイ警備兵の撤退、持ち出した美術品の返還を求め一方的に国際司法裁判所に提訴したことに対し国際司法裁判所が判決を下したものである。

 

(判旨)

タイが寺院の地図に関し、フランスとの交渉中にいくつかの抗議をする機会があったのにしなかったこと、前内務大臣でシャム王立協会長が寺院を訪れた際に、自国の権原について行動や反応をしなかったことについて、「ある状態、状況、行動を自国が合法と受け入れないことを表明し、自国の法的権利を保持するための一方的行為」である抗議をしていないものとみなし、タイが当時の寺院が描かれている地図を受諾し、カンボジアの寺院管轄を認めたとした。

 

  • 承認

東部グリーンランド事件-常設国際司法裁判所判決・1933年4月5日

(事案)

1931年、グリーンランド東部の無人地帯にノルウェーの捕鯨業者が上陸した後、ノルウェー政府がデンマークのグリーンランドにおける植民地支配は人が住んでいる地域に限られるとして、その地が無主地であったことを根拠に領有権を主張したことに対し、デンマークは自国の領有権がグリーンランド全土に及んでいるとして常設国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

ノルウェー外相イーレンがデンマークとの外交文書の交換の中で「当該問題の解決にいかなる困難ももたらさない」と宣言したことが「他国に対する法的拘束力を認める一方的行為」である承認にあたるとし、ノルウェーはデンマークの東部グリーンランドの主権を争うことはできないとした。

 

  • 通告

ノルウェー漁業事件-国際司法裁判所判決・1951年12月18日

(事案)

ノルウェーの海岸線はフィヨルドであり、その湾口は広いことでイギリスの漁業船も伝統的にフィヨルド内で操業を行なってきた。ところがノルウェーは直線基線を引いてフィヨルド内は自国の領海だとして英国漁船を締め出しはじめた。英国は直線基線の無効性を求めて国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

ノルウェーは領海画定に関する法制度を、国際連盟事務総長への覚書、ノルウェー最高裁判所判決、フランスとの外交文書の交換によって国際的に知らせており、これが法的拘束力を持つ一方的行為としての通告にあたるとして、イギリスはこれを無視することができないとみなし、イギリスの長期にわたる抗議の欠如及び国際共同体の一般的容認を根拠に、ノルウェーの通告という一方的行為の法源性からノルウェーが直線基線を引き領海設定をすることによるイギリスとの対抗に正当な根拠を与えるとした。

 

  • 約束

核実験事件-国際司法裁判所判決・1974年12月12日(百選111事件)

(事案)

1966年以降、フランスが行っていた太平洋沖の環礁での大気圏内核実験に対してオーストラリアはその中止を求めて国際司法裁判所に提訴した。その事案に関し、フランス大統領、外務大臣、国防大臣が次々と核実験の中止を宣言した。

 

(判旨)

一連の大気圏核実験停止の諸表明が、信義誠実の原則をもとに法的拘束力を持つ一方的行為の約束に当たるため、フランス自身を拘束するとした。オーストラリアはこれにより裁判の目的を達成したため判決の必要はなくなったとした。

 

  • 放棄

ニカラグア事件-国際司法裁判所判決・1984年4月9日

(事案)

ニカラグアに反米政権が誕生し、アメリカはニカラグアの反政府組織を支援し、死傷者を出す事態に至った。また、アメリカの石油施設の爆破、領空侵犯などに関し、ニカラグアは内政干渉であると主張し国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

アメリカが敗訴となったが、アメリカは賠償責任に応じなかった。結局、ニカラグア政府と米国政府は和解にいたり、ニカラグアは文書によって「ニカラグア政府は関連事件を基にした今後全ての訴訟の権利を放棄することを決定した。」と示し、自国が保有する法的権利をこれ以上行使しないものとして捨てる一方的行為の放棄に当たるとし、法的正当性が認められた。

 

考察

一方的行為は形式的法源とは言えないが、抗議承認通告約束放棄の5つの点に関して国際判例によって実質的法源性を認められた。

法の一般原則の法源性

問題提起

国際法の法源には形式的法源実質的法源の二種類があるが、法の一般原則は条約、慣習国際法ともに形式的法源と呼べるか。また、法の一般原則は実質的法源として機能しているか。

 

理由

第一に、国際司法裁判所規定38条は条約、慣習国際法以外に「文明国が認めた法の一般原則」を裁判の準則として認めている。しかし、裁判の準則であることが国際法の法源であるという理由にはならず、一般的に法の一般原則は、この国際司法裁判所規定のように条約によって法源性を認められているか慣習国際法になっていないかぎり、法源性は認められないため、法的拘束力を持つ国際法規則としての形式的法源とは呼び難い。

第二に、法の一般原則が国際法規則の存在を立証するための根拠となり、形式的法源への可能性をもつ補足手段として実質的法源の役割を果たしているかどうかであるが、法の一般原則としての「国際法違反の国際責任原則」や「信義誠実の原則」、「裁判の既判力」などが実質的法源性をもつと判例でも証明されている。

 

判例

 

  • 国際法違反の責任原則

ホルジョウ工場事件-常設国際司法裁判所判決・1926年5月

(事案)

第1次世界大戦後、ドイツからポーランドに割譲されたホルジョウにあった窒素工場をポーランドが収用したことに関して、ドイツは常設国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

管轄権に関するポーランドの先決的抗弁を退け、ホルジョウ工場の収用がジュネーブ条約違反であることを認めた。また、約束の違反が適当なかたちで賠償をなす義務をともなうことは国際法上の原則であるとして、国際責任の原則を提示した。

 

 

  • 信義誠実の原則・禁反言(エストッペルの原則)

東部グリーンランド事件-常設国際司法裁判所判決・1933年4月5日

(事案)

1931年、グリーンランド東部の無人地帯にノルウェーの捕鯨業者が上陸した後、ノルウェー政府がデンマークのグリーンランドにおける植民地支配は人が住んでいる地域に限られるとして、その地が無主地であったことを根拠に領有権を主張したことに対し、デンマークは自国の領有権がグリーンランド全土に及んでいるとして常設国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

ノルウェー外相イーレンがデンマークとの外交文書の交換の中で「当該問題の解決にいかなる困難ももたらさない」と宣言したことによって、禁反言の原則からノルウェーはデンマークの東部グリーンランドの主権を争うことを控える義務がある。

 

※禁反言「一方の自己の言動により他方がその事実を信用し、その事実を前提として行動した他方に対し、それと矛盾した事実を主張することを禁ぜられる。」

 

考察

法の一般原則を法的拘束力を持つ国際法規則としての形式的法源としては認められないが、「国際法違反の国際責任原則」や「信義誠実の原則」、「裁判の既判力」など、国際法規則の存在を立証するための根拠となり、形式的法源への可能性をもつ補足手段としての実質的法源性はもつと考えられている。

 

慣習国際法の成立要件

問題提起

慣習国際法として成立され、法的拘束力を認めるためには、どのような要件が必要とされるか。またそれらは国際判例でどのように規定されてきたか。

 

理由

1969年の北海大陸棚事件国際司法裁判所判決により、慣習国際法の成立要件は定義されているように、慣習国際法の成立要件には、客観的要件として一般慣行主観的要件として法的信念(opinio juris)を要求する2要件説をとっている。

 

判例

北海大陸棚事件-国際司法裁判所判決・1969年2月20日(百選1事件)

(事案)

北海大陸棚における境界画定でもめていた西ドイツ、デンマーク、オランダの三国は、どのような国際法原則に基づき大陸棚境界を画定できるかを国際司法裁判所にもとめた。

 

(判旨)

大陸棚上の境界画定に関して従来より頻繁に用いられてきた等距離原則が慣習国際法かしているかどうかの判断に関して、国際司法裁判所はまず、慣習国際法としての成立要件を確認した。

関係行為は、常に定着した慣行に達していなければならないだけでなく、この慣行がそれを要求する法原則の存在によって義務的なものとみなされているという信念を証明するようなものでなければならず、またはそのような信念を証明するような方法で実行されなければならない。

ごく短期間の経過は、必然的にまたはそれ自体で、もともとまったくの条約上の規則であったものに基づいて新しい慣習法の規則が形成されることを妨げるものではない。

 

ローチェス号事件-常設国際司法裁判所判決・1926年10月12日

(事案)

ローチェス号とボス・クルト号が公海上で衝突し、志望者が発生したことに関し、トルコ警察はローチュス号のフランス人当直士官ドゥモンとボス・クルト号のトルコ人船長ハッサン・ベイを殺人の容疑で逮捕し、イスタンブール刑事裁判所で有罪判決を下した。フランスは、トルコには裁判管轄権はないと抗議し、両国の合意のもと常設国際司法裁判所に付託された。

 

(判旨)

確かに裁判権は属地的なものであり、慣習国際法や条約で許容される場合を除いて裁判権は領域の外で行使してはならない。しかしこのことから、領域内において国外で行われた行為に対して裁判権を行使することが国際法上禁止されているということにはならない。

※ただし、現在この考え方は国連海洋法条約第97条「1.公海上の船舶につき衝突その他の航行上の事故が生じた場合において、船長その他当該船舶に勤務する者の刑事上又は懲戒上の責任が問われるときは、これらの者に対する刑事上又は懲戒上の手続は、当該船舶の旗国又はこれらの者が属する国の司法当局又は行政当局においてのみとることができる。3.船舶の拿捕又は抑留は、調査の手段としても、旗国の当局以外の当局が命令してはならない。」の規定において否定されている。

 

コンゴ外相に対する逮捕状事件-国際司法裁判所判決・2002年2月

(事案)

ベルギーは国際人道法違反に関するベルギー法の普遍的管轄権を根拠に、コンゴ民主共和国の外務大臣に対し逮捕状を発行した。コンゴ民主共和国はこの件に関し、ベルギーを相手取って国際司法裁判所に対して強制管轄受諾宣言に基づき訴訟を提起し、主権平等原則に違反するゆえにベルギーが逮捕状を取り消さなければならないと主張した。

 

(判旨)

外相が享受する免除を特定的に定義する条約は存在しない。ベルギーは、国際法上の重大犯罪や私的資格すなわち公的任務の遂行以外でなされた行為に対してはいかなる免除も付与されないと主張した。一方、コンゴ民主共和国は、国際慣習法上、現職の外相は、その職務の遂行を他国により妨げられることのないよう、国外で刑事裁判権からの完全な免除と、いかなる政府当局の行為からも保護される不可侵権を享受すると主張した。これに対して、一般慣行上、こうした規則のいかなる例外も見つけることができなかった。したがって、外相が逮捕時に、公的または私的訪問で逮捕国の領域内に在るかどうか、逮捕が外相として行った職務又は職務中に行われたとされる行為に関するものかどうかは問題にならない。さらに、国際法上の犯罪を行った罪で起訴されるような刑事手続からも、現職外相は絶対的免除を享受し、それに対するいかなる例外もない。

 

インド領通行権事件-国際司法裁判所判決・1960年4月12日(百選3事件)

(事案)

ポルトガルはインド領に囲まれた飛び地の領地を有していた。インドの反ポルトガル勢力はこのポルトガル領地の返還を主張し、ポルトガルのこの飛び地への通行を禁止した。ポルトガルは二国間慣習国際法を根拠に飛び地への通行権を主張し国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

長期間の慣行に基づき地域慣習法を形成しうる国家の数が2以上でなければならない理由がない。

 

 

考察

慣習国際法の成立要件には、主に一般慣行法的信念を必要とする。一般慣行の証明には均一性一般性一貫性の3要件を厳格に求められるが、北海大陸棚事件に定義されたように、継続期間の長さに関しては重要視されておらず、一般性に関しても特別影響国間の一般慣行を重視するといった妥協も考えられる。

法的信念に関しても、その存在を主張する国に立証を厳格に行うように求められている。ローチュス号事件やコンゴ外務大臣に対する逮捕状事件において、前者に関しては慣習国際法によって禁止されているとする国際的法的信念がないとされたこと、後者に関してはベルギー法に国際人道法違反に対する普遍的管轄権があるとする法的信念が認められないとしたことにその厳格性が現れている。

慣習国際法はインド領通行権事件でも示されたように二国間慣習法もありうる。

同意によらない条約の終了・停止

問題提起

効力を発していた条約がその効力を消滅させ、終了もしくは、その効力を一時的に停止するために、条約締結国の同意が必要とされるか。必ずしも必要とされない場合は、どのような原則のもとで行われるか。

 

理由

第一に、効力を発していた条約が、条約締結国の同意なしにその効力を終了・停止するための理由として、条約法条約60-64条に順に

  • 重大な条約違反
  • 後発的履行不能
  • 事情の根本的変化
  • 外交関係の断絶
  • 新たな強行規範への違反

5の理由が規定されている。

 

判例

重大な条約違反の場合

ナミビア事件-国際司法裁判所勧告的意見・1971年6月21日(百選99事件)

(事案)

第一次世界大戦後のパリ講和条約後、1921年より国際連盟からナミビアは南西アフリカとして南アフリカによる委任統治領とされていた。1945年より国際連盟に代わって、国際連合が成立すると、南アフリカは南西アフリカの併合を宣言し不法占領をした。

南アフリカによるナミビアでのアパルトヘイト政策や、ウィントフックの虐殺事件に伴い、1960年12月14日付総会決議第1514号において、南アフリカは委任統治における義務違反であるとし、1966年総会決議第2145号において南アフリカによる委任統治に関する条約を終了させ、同時に南西アフリカは独立まで信託統治領とするとし、安保理決議第276号でこの決定に法的拘束力を与えた

しかし、条約の終了に反対し実効支配を不当に続ける南アフリカに対し、国際司法裁判所は条約の終了の正当性と国連総会決議第2145号を確認する意味で勧告的意見を行った。

 

(判旨)

委任状は条約の性格をもつ国際約束であり、南アフリカはそれに基づく義務を履行していない。委任状の監督機関である国連総会決議第2145号はこの義務違反を理由として、南アフリカのナミビア委任統治を終了させたため、条約の重大な違反による終了といえる。

 

(考察)

一方の当事国による条約に対する重大な違反があった場合は、その他方の締結国は条約終了または停止の根拠とすることができる。

 

後発的履行不能の場合

ガブチコヴォ・ナジマロシュ計画事件-国際司法裁判所判決・1997年9月25日(百選69事件)

(事案)

チェコスロバキアとハンガリーは1977年の条約で、国境のダニューブ川沿いにそれぞれダムと水力発電所を共同建設することに合意した。しかし、ハンガリーは環境への影響などを理由に建設を放棄し、条約の終了を宣告した。ハンガリーは条約の終了の根拠に環境への影響などを用いることができるか。

 

(判旨)

条約の運用停止の理由である後発的履行不能の存在は国際慣習法上の規則であることを認めるとともに後発的履行不能が違法性を阻却するために国際委員会の国家責任条文草案33条の掲げる5つの要件を援用した。すなわち、

  1. 行為が不可欠な利益に起因しているこ
  2. 利益が重大かつ急迫した危険によって脅かされていること
  3. 当該行為がその利益を保護するための唯一の手段であったこと
  4. 相手国の不可欠な利益を重大に侵害するものではないこと
  5. 当該国家が後発的履行不能の発生に寄与していなかったこと

環境上の履行不能はこれらの要件を充足していないとしてハンガリーの1977年条約の不履行を後発的履行不能を理由として正当化することはできないとした。

 

(考察)

後発的履行不能を条約の終了及び停止の根拠とするためには

  • 条約の終了または停止が不可欠な利益に起因していること
  • 利益が重大かつ急迫した危険にあること
  • 条約の終了または停止がその利益を保護するための唯一の手段であること
  • 相手国の不可欠な利益を重大に侵害するものではないこと
  • 当該国家が後発的履行不能の発生に寄与していなかったこと

が満たされている必要がある。

 

事情の根本的変化の場合

アイスランド漁業管轄権事件-国際司法裁判所判決・1973年2月2日

(事案)

1961年の交換公文(条約)によって、イギリスとアイスランドはアイスランド沖合漁業管轄権を12海里としたが、1972年アイスランドが事情の根本的変化(漁業技術の進歩)を理由に50海里に拡大することを一方的に宣言し、イギリスが国際司法裁判所に提訴した。

 

(判旨)

漁業技術の変化は、本案判決に適切な関係を持ちうるが、一方の当事国の生存またはその生存に必要な発展を危うくするものであるという伝統的見解に合致せず、根本的変化とはいえない。 

義務履行を最初に引き受けられたものとは本質上異なるものにする程度にまで果たされるべき義務の負担を増大させるものでなければならないが、漁業技術の進歩が交換公文(条約)に規定された義務の範囲を根本的に変えたとはいえない。

 

(考察)

事情の根本的変化による条約の終了及び停止を行うためには、

  • 当該変化が予見しえなかったものであり、条約に拘束されることに関する当該国の不可欠の基礎をなしていたこと
  • 当該変化が条約に規定された義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること

でなければならない。